働かないクズ
「秋からの食料支援は闇侯爵が今回もきっちりさせていただきます。今回お持ちした食事は食料支援ではありません。仕事を手伝ってくれる人へのお礼です」
きっぱりと男をにらみ返して口にする。
そして、地面に散らばったサンドイッチをかきあつめようとしたら、子供の一人が手を伸ばして口に入れようとした。
「だめ、こっち、まだいっぱいあるから」
その手を止めると、慌てて籠に入った綺麗なサンドイッチに手を伸ばす。
「でも、まだ食べれるでしょう?腐ってないでしょう?」
男の子が首をかしげる。
「はっ、お貴族様は地面に転がった食べ物は食べないとさ!」
「贅沢なもんだな。俺たちが食べる物もなくお腹を空かせた毎日を過ごしているというのに」
「他の聖女様たちと違って、何もしない癖に」
「そうだ、他の聖女様は土を豊かにし、雨を降らし、植物を育ててくれるというのに。おまえは何もしなくてもご馳走を食べてるんだろう」
ああ、駄目。なんだろう。
村の人たちが貧しい生活を強いられているのは分かる。
何も変わらないと、おばあさんが嘆いていたけれど……。
それって、侯爵のせい?皇帝のせい?私のせい?
違う。そうじゃない。
そうじゃ、ないっ!
きっちり地面に落ちたサンドイッチを拾い、籠を蹴った男の目の前に差し出す。
「あなたが籠を蹴らなければ、この子たちも地面に落ちたサンドイッチを食べることはなかったのよ。ねぇ、食べ物を足で蹴るなんて、貴族だってしないわよ?あなたこそ、何様なの?ねぇ、食べる物が無くてお腹を空かせた毎日を過ごしている自分が本当は大好きなんじゃないの?」
私の言葉に、男がカッと頬を染めた。
「好きでこんな生活をしているっていうのか?冗談じゃねぇ!雨が降らないのは俺のせいじゃねぇだろ!」
「そうね。でも、今働いていないじゃないの」
男が一面に広がるすっかり麦が枯れてしまった畑を指さした。
「何も分かってないな。何をしろっていうんだ。麦さえ育っていれば、草をむしり、虫を取り、麦を刈り取り、脱穀し、することはたくさんあった。今は、働きたくても働けないんだっ!」
そうだそうだと、私と男の言い合いを聞いて村人が頷いている。
「本当に働きたいの?待て居れば食料が支援されて、働かなくても食べ物が手に入るのに、なんでわざわざ働かなくちゃならないんだと思ってるんじゃないの?」
私の言葉に、男は一瞬目を見開いた。
「子供たちがこんなにやせ細っていて、お腹を空かせてるのを目の前にしても、働いてないあんたたち大人は何なの?ねぇ、あそこに見える山まで行けば、山の幸が採れるんじゃないの?街まで出稼ぎに行けば、食べ物をお土産に帰ってこられるんじゃないの?なんで、働いてないの?働かないの?」
言葉に詰まった男が、一段と大きな声を出した。
「働かなくたっておいしいものをたらふく食ってるお前に言われたくねぇんだよっ!」
つかみかかられるかと思ったけれど、その一線だけは思いとどまったようだ。
「自分が働かない理由を、アイツも働いてないんだから俺も働かないなんて言い出したら末期ね」
「なんだと!」
カッと腕を振り上げた男を、他の村人が止めた。
「聖女に手を上げたらお前は死ぬぞ」
失礼ね。そんなことで罪に問わないけれど。




