死ぬっ
「さぁ、聖女様、こちらが風呂でございます」
連れて行かれた場所は大浴場だった。
石造りの床に石造りの浴槽。行ったことが無いけれど、テレビで見る高級旅館の温泉見たい!
どうしよう、すごくうれしい。入ってもいいの?
入り口で立ち尽くして感動していると、乱暴に背中を押された。
「さぁ、早く入ってください」
「ああ、聖女様はお風呂の入り方を知らないのでは?くすくす」
「入り方を知らないどころか、お風呂というものすらご存知ないのかもしれませんわね」
侍女たち3人が私の後ろにぴたりとつき、腕まくりを始めた。スカートもたくし上げている。
あ、これ、もしかして、何から何まで貴族のご令嬢がお世話をされちゃうあれ?
「大丈夫ですわ。私たちがしっかり、オシエテ差し上げます」
背中に背負っていた小さなリュックを外され、フェイクファーのベストを引きはがされた。
「いえ、自分でできますからっ」
と訴えて見たものの、私の腕を二人が一つずつつかみ、とても自由にはさせてもらえない。そこに、もう一人が桶にお湯を組んで持ってきた。
「さぁ、まずはお湯をかけて、汚れを流しましょう」
ばしゃっと、頭からお湯をかけられた。
え?まだ、シャツとズボンを着たままなんだけれど……。
ポタリポタリと髪から滴が落ちる。
この世界は服を着たまま風呂に入るしきたりなのかな?
日本でも湯帳や湯帷子という浴衣みたいなものを着たまま江戸時代までは風呂に入っていたんだって本に書いてあったし。必ずしも服を脱いで入るものとは限らない。
「ああ、汚い」
忌々し気な声を出して、侍女が再び桶にお湯を満たし、私にぶっかけた。
頭からお湯をかけるのとは違い、今度はばしゃっと顔に向けてお湯をぶっかけられた。
「ぶはっ」
いきなりだったので、鼻から水が入った。
痛。
「あははは、ぶはっですって。変な声を出して、みっともない」
「風呂の入り方も知らない聖女様は上品な声の出し方もご存じないみたいよ」
「醜い声など出せないようにして差し上げたほうがよろしいかもしれませんわね」
え?
桶を投げ捨てた侍女に胸倉をつかまれて、湯船のあるところまで引きずられるようにして移動する。
「お顔を綺麗にして差し上げますわ。こっぴどく着いた汚れは落とさなければなりませんからね」
私の両脇にいる侍女が、私の腕と肩を押さえつけ、膝まづかた。
そして、お湯を私にかけていた侍女が、私の頭をわしづかみにすると、お湯に押し込んだ。
がぶぶぶっ。
お湯に顔をつけられた。確かに、綺麗になるけど。ああ、何、何なの?この世界ではお風呂って、こんな風に入る者なの。
って、息が続かない。苦しい。
暴れる私の頭を侍女が抑え続ける。
死ぬっ。
そう思った瞬間、髪の毛をひっつかんで顔を引き上げられた。
「あーら、まだ汚いわね、聖女様を綺麗にして差し上げるのが私共の務めですから」
にたりと笑った侍女が再び私の頭をお湯の中に突っ込んだ。
さすがにこれはおかしいのでは?
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