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■加護なしハズレ闇侯爵の聖女になりまして~ご飯に釣られて皇帝選定会に出ています~  作者: 富士とまと


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 ……村人の様子を思い出す。私に対する拒否反応がすごかった。

 話を聞いてもらえるだろうか。話を聞いてもらえなかったらどうしよう。

「あの、セス……皇帝選定としての活動であれば、他の領地でも好きにしていいっていう話を聞いたんだけれど……。その、住民たちに何かしてほしいと頼むこともできるのかしら?」

 できれば、権力を使って無理にさせたくはない。だけれど……。最終的にはお願いという形をとってもこちらのお願いに逆らえないというのであれば無理にさせたことに変わりは無くなるだろう。私は悪役をやりたくないんだな。人のためといいつつ、自分が悪者になってまで誰かのために何かをしようとまで思わない。

 ずるいよね。

「俺の役割だ。命じることは俺がするさ」

 イザートが私の肩をそっと叩いた。

 私、顔に出てた?

「そうですねぇ。イザート様からの命令ですと、私が伝令役を務めましょうか。イザート様の手が離れないこともありましょう。必要とあらば、私がお供いたしますよ」

 セスたイザートの言葉に続いた。

「ありがとう……」

「セス、大丈夫だ、俺がリコについていくから」

「何を言っているんですか?イザート様はお仕事が忙しいでしょうから、私が代理を務めます」

「ははっ、たまには仕事の息抜きも大切だからな!問題ない!」

 イザートはいつでも、施政者として悪役になる覚悟もあるんだ。セスにも。

 そりゃそうか。情に流されて処分を怠るわけには行かないこともたくさんあるだろう。

「いざという時にはお願いします」

 でも、私は二人を悪役にしたくない。

 油の魅力を伝えることと、特別感の食べ物で協力を要請することとが成功すれば……。

 よぉし!

「セスさん、ジャガイモもらっていってもいい?明日アイサナ村に行くときにあるだけ持っていてても構わないかな?」

「あるだけ、ですか?食糧庫には麻袋2つ分くらい保管してあったと思いますが……まぁ、すぐにジャガイモでしたらすぐに業者が運んでくれると思いますが……」

「なんだ、もしかしてアイサナ村は今日明日食べるものも不足しているくらい困窮しているのか?だったら、支援物資の準備を急がせるが」

 イザートもセスもすぐに反応してくれる。

「あ、いや、たぶん大丈夫。秋以降、本来麦が収穫されたはず以降の食料の心配をしていたから」

 ビシソワーズを3回お代わりしてからやっと次の料理が運ばれてきた。

 あまりに美味しくて、私も1度だけお代わりした。……けどね。

 じゃがいものスープよ。味噌汁と違ってジャガイモが入っているので、お腹が膨れるといいうことをうっかり忘れていた。


 若干食べ過ぎてお腹いっぱいで苦しいと思いながら部屋に戻る。

 ……チラチラとやせ細ったアイサナ村の人たちの姿が脳裏に浮かんで、食べ過ぎた苦しさはお腹ではなく胸にも広がった。

 罪悪感だ。

 これから何かを食べるたびに罪悪感を感じる人生なんてまっぴら!

 皆を助けたいなどと聖女みたいだなんてイザートは言ったけれど全然違う。

 単に私が、苦しみたくないだけ。偽善だ。偽善。

「メイ、お願い。今から言うものをメモしてセスに届けてもらえる?」

 まずは日本語でメモした必要な物を読み上げメイに書いてもらう。

 文字を覚えないとな。文字を覚えるための本みたいなものをリストに加える。それからノートを。

「ノートとは何でしょうか?」

 え?メイがメモを取りながら尋ねた。

「あー、束ねた紙……で、無地の本?」

「無地の本、ですか?」

 本は立派な表紙がついてる。高価である理由の一つだろう。

 そういえば、レシピを売るときも紙に書き写して売るって言っていた。本で売ると高価になりすぎるんだろう。手で書き写すならそれも分かる。

 そして、高価になるからこそ、本の装丁……表紙などもしっかりしたものを付けて、大切にする。

 紙は、日々のメモに使える程度には普及している。……印刷技術か……。やっぱり木彫り?活版印刷を提案してみる?いやでも、レシピって、写真が入っていたほうが分かりやすいよね。写真は無理だから簡単な絵。絵は活字とちがって一つずつ違うわけだし、やっぱり木彫り?

 浮世絵みたいに何枚も板を用意すると、カラフルにもできるわよね。ああ、でも誰が彫るの?消しゴムハンコみたいなの習っておけばよかったかな。

 と、考えてふっとおかしくなる。

 私の生活のどこに、そんな余裕があったんだろう。

 仕事をして家事をして、へとへとになって眠るだけの毎日だ。移動時間や待ち時間や寝る前のほんの少しの時間に読書をするのが唯一の楽しみだった。

 習い事なんて、妹が生まれるまでやっていたスイミングと書道くらいで。妹が生まれて乳児を抱えての送り迎えが困難だとしばらく休みましょうと母に言われてそのままやめてしまったんだ。

「あ!書道……!」

 ふっと、思い出の中で書道教室に貼られていた紙を思い出した。見本として昔の名のある人の書の写しが張ってあった。あれって……。


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