二毛作
「あ……。これは、うまいな。さっきのマヨネーズも美味いが、油が少なくて食べられなかったが、これはお代わりはあるんだろう?ジャガイモが材料なら、お代わりが、あるんだろう?」
イザートが何かを訴えるように侍女たちをちらちらと視線を送る。
先ほどミミリアに言われた侍女たちは優雅にそして素早く自分たちの役割を全うしようと動き始めた。
すぐに指摘をされたことを実行できるんだから、やっぱり基本的に皇帝宮から派遣されている侍女は皆優秀なのだ。
と、思いながら、私の頭の中では、ビシソワーズに目が釘付けになっていた。
二期作……。
「セス、他の領地では2度、麦は収穫できないの?」
ジャガイモも、年に2回収穫する作物ではなかっただろうか?スーパーだと、春と秋、新じゃがとして野菜売り場に並んでいる。
今は夏だ。秋の収穫を前にアイサナ村では作物がほぼ全滅してしまった。が、まだ、冬ではない。これから秋だ。
「ええ。冬が厳しくてとても難しいのです」
まって。まって。私、大事なことを忘れてた。
米は秋に収穫する姿をよく見てるけれど、そもそも小麦は春に植えて秋に収穫する春小麦ではなく、秋に種をまいて初夏に収穫する冬小麦が一般的ではなかった?
冬が厳しいってことは、春小麦を栽培してるってこと?でも、アイサナ村は日本よりは冬が厳しくないという話だったはずで。あれ?
そもそも品種が違う?冬小麦ではなく春小麦の栽培が中心ってこと?
「セス、確かアイサナ村が何年に1度か深刻な干ばつに見舞われるとか、日照りで苦労しているというのは、夏の間の話よね?1年中水が不足しているわけではないのでしょう?」
「ええ、そうですね」
じゃぁ、春小麦ではなく冬小麦ならば日照りの影響を受けずに収穫ができるんじゃない?
冬小麦を探せば、いろいろな問題が解決するんじゃ……?でも、あればとっくに栽培してる?いや、ないなら作ればいいんじゃない?品種改良。
「品種改良……か」
ごくりと唾を飲み込む。農業の知識もろくにない私にできるわけがない。
今分かっていることを整理しよう。
アイサナ村、もしくはこの世界で一般的に育てられている麦は「春小麦」と呼ばれるもので、稲と同じような時期に栽培している。
冬を超えられないから冬小麦は栽培していない。
あれ?これって、逆に……。
菜種油の原料は菜の花だ。
菜の花のあの、黄色い花を一面に見るのは春。あの花を見ると春だなぁと感じる花の代表格の一つだ。
つまり、春が過ぎてから収穫する。種まきは秋。
……二毛作ができるということじゃないだろうか。
連作障害もそれで避けることができるなら一石二鳥だ。
……。すごい。すごいよ。
「セス、欲しい物に菜種……菜の花の種を。菜種油……マヨネーズの材料となる油を作るための植物の種が欲しいの」
「はい。一般的に出回っているものではありませんので、どれくらい入手にかかるか分かりません。もしかして油の栽培を広げられたくないと出し渋る可能性も……」
申し訳なさそうな顔をセスが見せた。そういえば、ゴマ油のゴマは食料としても流通していたけれど、菜種は菜種として流通してなかったか。
「ん?菜の花って、黄色い花を春に咲かせるやつだろう?少しだが種は持ってるよ。鮮やかな黄色い花が一面に広がるのも趣があると好む方もいるんで」
庭師のトムさんが口を開いた。
「もっと必要なら、数日もらえれば業者から手に入ると思いますよ」
花の種として流通してた!
「ありがとう!トムさん!お願いします!」
すぐに入手できたとしても、栽培することをアイサナ村の人たちに受け入れてもらわなければならないし、まだ少し種まきの時期にも早いだろう。




