100年に一度の恩返し
「ビビカ、野菜はおまけ。マヨネーズを楽しむための添え物なの。ほら、このマヨネーズを食べてみて。はい、お口アーン」
今までの食事からビビカは人参は好きだけどきゅうりはあまり好きではないようだったので、人参にマヨネーズを付けてビビカの口元に運んだ。
ぱっくん。
羊や牛じゃないぞと言っていた割には素直に口を開いてマヨネーズを付けた人参にかぶりついた。
「なんだこれ!すごい!俺様、この味好きだ。リコ、もっと、もっと!」
いつか見たチュールを前にした猫の動画を思い出しながら、ビビカに野菜を付けたマヨネーズを差し出す。
次々にビビカは野菜スティックを食べた。
「もっと!」
「ごめんね、ビビカ。マヨネーズはこれだけしかないの。もうおしまい」
ビビカが、ぎぃっと、イザートを睨み付けた。
「分かったぞ、俺様が遅かったから、イザートがお代わりを何度もして俺様のお代わり分が無くなったんだろう!」
……。違うけれど、もしかしたらそうなっていたかもなぁと想像したせいで、訂正するのが遅れた。
「リコー!ビビカが濡れ衣を俺にかぶせた。それも、マヨネーズが無いせいだ。油、油……油が欲しい」
イザートの叫びに、ふっと顔がゆがむ。
「うん、だから、アイサナ村で油を作ってもらって、それを食料と交換することはできないかなと、相談してたんだった。それで闇侯爵領では他の領に売ったり交換したりするだけの作物が採れるんだよね?」
「ああ、もちろん問題ないぞ。っていうかわざわざそんなめんどくさいことしなくても、闇侯爵領で作ればいいんじゃないか?」
セスが私の援護に口を開いた。
「リコ様の提案の意味をもう少し考えてみてはいかがですか。アイサナ村や似たような村への支援を闇侯爵領では毎年行っています。支援ではなく取引になるのであれば、こちらが一方的にかぶるということは無くなるでしょう。ああ、もちろん支援の見返りに侯爵様方に魔法をお願いしているという側面はありますが、見返りがなくとも皇帝の命令で助けは入るでしょう。それに、闇侯爵領では12年前に土砂崩れの片付けに土魔法で助けてもらった以外、この100年はほぼ魔法なしで過ごせていたはずです」
え?
何それ。100年の間に1度助けてもらうために、毎年支援という名目でただであちこちの領地に食料配ってるわけ?まぁ、人助けに対価を求めるのは違うとも思うけれど。
闇侯爵は精霊の加護が無いんだから、文句言わずに食料出せよ!みたいな脅迫めいたというか、上下関係というか、なんかそういう逆らえない相手に無理を押し付けるような話なら気分が悪いよ。
いや、でも他の領主も領民の命を守ろうと必死になった結果、脅すような真似をしてでも食料を手に入れたかったのかもしれないし。疑り深いな、我ながら。私、根性が悪いのかなぁ。……聖霊の加護がないと馬鹿にされることが頻繁にあったからなのかな。