侍女の態度
ごつごつ骨ばったりとがったりした爬虫類っぽさがなくなって、丸みを帯びてモフモフしてそうなぬいぐるみのような姿になってる。
抱きしめたい。ああ、でも、聖獣でしょう?聖なる獣ってことよね。なれなれしく触ったりなんかしちゃ駄目よね……。
思わず両手を広げてぎゅーっとしたいのを我慢。
「聞いたかイザート、俺様すごいんだぞ。黒くて綺麗で大きさも変わるすごい聖獣だ」
ずんずんと歩き出したイザートの顔の周りをパタパタと飛びながらビビカが自慢げに口を開いている。
かわいい、かわいい、かわいい。
っと、置いていかれる。風呂とご飯が私を待っている。
慌てて1人と1匹……匹でいいのかな?のあとを追う。
平屋建ての黒い屋敷。重厚な両開きのドアが開くと、10名ほどの人が並んでいた。
侍女など使用人のようだ。
「お待ちしておりました。闇侯爵様。皇帝選定が行われる1年お屋敷でお世話をさせていただきます。執事のセスと申します」
プラチナブルーというのだろうか。少し青みがかって見える銀髪の30代半ばと思われる男性が一歩前に出た。
少し長めの前髪を左右に分けて、後ろの髪は肩より少し下まで伸びている。それを一つにきっちりとまとめて、黒いリボンを結んでいた。
黒い執事服とそれ得ているのだろうか。
っていうか、クールビューティーって単語がまず頭に浮かんだ。細くて切れ長の目に薄い唇。整った顔立ちであまり表情が顔に現れていない。人形みたいだと、なんでクールで冷たい印象を受けるのだろう。
って、それよりも、執事って、私の中の執事って、50代とか60代のそろそろ白髪でもいいような人ってイメージなんだけど。若いよね。
どう見ても30代にしか見えない。それで執事って、もしかしてすごく優秀な人なのかな?それともこの世界では普通?
「あー、頼む。まずは聖女の風呂と着替え、俺は少し仕事をする。食事は2時間ほどあと」
簡単に挨拶を済ませただけで、イザートは屋敷の奥へと歩いて行ってしまった。ビビカを連れて……。
一人にされてしまった。
屋敷の入り口は高級旅館のフロントのように広々としていて立派だ。部屋数もたくさんあるのだろう。
「聖女様、どうぞこちらへ。お風呂はこちらでございます」
風呂!
黒い飾り気のないワンピースに、白い胸当て付きのエプロンを身にまとった20歳くらいの侍女の一人が無表情に私に声をかけてきた。
侍女のあとについていくと、後ろから2人の20代半ばの侍女2人がくすくすと笑っている。
「まさか、聖女を連れてくるとは思わなかったわね」
「皇帝を目指すつもりもないなら聖女なんて必要ないでしょう」
「そもそも、精霊の加護もないのに聖女とか笑えるわ。何の冗談だろう」
「さぁねぇ、どうせただの愛人かなんかでしょう」
しっかり会話は聞こえている。むしろ、聞こえるようにあえてあまり声を潜めていないのかもしれない。
状況がよくわからないため、黙っていられるより何らかの情報が手に入る方がありがたい。
どうやら、ここは皇帝を選ぶための施設だ。イザートが見せてくれた板切れに書いてあった。
第60代皇帝選定会と。
候補者は6名。水侯爵、木侯爵、風侯爵、土侯爵、光侯爵、それから闇侯爵のイザートらしい。
示された課題をよりよく解決していくことで勝者が決まるらしい。最終的には勝ち負けを参考に「精霊王」が次の皇帝を指名するということだ。
そして、1回戦は、闇侯爵のイザートと、さっき会った髪の長い水侯爵ハーレーが対決する。場所はアイサナ村。日照りが続いて困っているから、それを解決するというのが課題らしい。期間は2か月。
ちなみに、他の対戦は木侯爵と光侯爵、風侯爵と土侯爵で、やはり別の日照りで困っている村が勝負の場所らしい。
……上空から見た六芒星の色とりどりの三角の部分が、それぞれの侯爵の住まいっていうことかなぁ?
候補者は皇帝になりたくて競い合うわけだけど、どうやらイザートは皇帝になる気はなさそうだ。「行きたくないなぁ」って言ってたし。
でも、欠席は許されないのだろう。だから、いやいややってきたってところか。そして、なぜか皆、闇侯爵が皇帝になろうとしていないと知っている。というか、なれないと思っているような感じだ。
有名なのかな?イザートのやる気のなさ。