努力の結晶
「ミミリアは、心が醜いんじゃないよ。普通、普通。ただ、心が弱かったんだよ。心が弱くて、ちょっとだけ自分の外に弱い心を出さずにはいられなかった」
だからって、人をいじめていいなんて思ってない。
いじわるする人は嫌いだし、許せない。
けれど、自分のしたことを反省して、心を入れ替えている人間までずっと許さないでいることは私が疲れる。
ぽろりと、真っ赤な顔のミミリアの目から涙がにじむ。
「わ、私……お恥ずかしいです……ここで働く資格なんて……」
恥ずかしいか。
過去の自分の行いを恥ずかしく思うのって、最大級の反省だよね。
「私はね、罪は償ってもらいたいの。恥ずかしいって思いながら働くのは大変だろうけれど、逃げないで続けてもらえるかしら?」
「リコ様……ここで働いてもよろしいのですか?」
償ってと言っているわりには、ミミリアは不快そうな表情は見せていない。
「もちろんよ。これからあなたが長年頑張ってきた努力の証である知識を皆に伝えてもらえる?」
「努力の証である知識……」
ミミリアが口を半開きにしながら私の言葉を小さくつぶやいた。
それから、すぐにぽろぽろとミミリアの瞳から涙が落ちる。
「そうだな。給仕されるのが当たり前になってたからな。侍女の給仕の仕方をいちいち気にしたことはなかったが。さっきの言葉を聞けば、すぐにたかが給仕でないことはすぐに分かった。主人や客人にいかに快適に不便なく食事を楽しんでもらうのか。どれほど考えられているのか。そして、そういった行いが自然にできるまで、どれほどの経験を積み勉強してきたのかがよくわかる」
イザートの言葉に、ついに耐えきれなかったのかミミリアはテーブルに置かれたナフキンを手に、顔を覆ってしまった。
「俺には、とても真似できない」
イザートの言葉に、セスが続ける。
「でしょうね。もう少し優雅な動きを身に着けていただかなければ、とても無理でしょう」
あはは、言われてるな。イザート。でも、セスの言葉が私の胸にも突き刺さった。そうなのよ。動きが優雅なの。
私のように山賊だと言っても納得されるような身のこなし方じゃ、侍女になりたいです!って言っても門前払い食らっちゃうわ。
もう少し姿勢も正しく優雅な動きができるようにしなくちゃ……。
「あ、あの、ミミリアさん……こんな時はどうしたら……」
ミミリアの後ろでマーサがおろおろとしている。
「お客様が泣き出してしまった場合、あの、どうしたらいいのでしょう?」
って、泣いてる本人にマーサは尋ねた。




