侍女の教育
「発言をお許しいただいても?」
「ええ、もちろんよ。今は会食の練習ですもの。設定は、そうね。お互いがそれなりに親しい間柄で、遠慮なく何でも話ができるってどうかしら?そういう関係と、上下がきっちりしていて、発言するのに主催者の許可がいる場合の会食では配膳にも別の気遣いが必要になるのかしら?」
ミミリアが頷いた。
「はい。もちろんでございます。上下関係がはっきりしている場合と、そうでない場合では全く違います。何を置いても上の者を優先しなければなりません。下の立場の者から先にしてはなりません。また、同じ位の者がホストと客人としている場合においても違う対応がございます」
「そう。じゃぁやっぱりいろいろな設定とパターンで今後も実行したほうがいいみたいね」
配膳練習をしている侍女たちが大きく頷いた。
ミミリアはちょっと視線を落としてから、顔を上げた。
「発言のお許しをいただきましたので……。あなたは、何をボケっとしているの?」
イザートの後ろに立っていた侍女に声をかけた。
「え?はい?あの、次のお料理をお出しするまで静かに控えております……」
「イザート様の食べ方をご覧になりました?」
とても侯爵とは思えないほどがっついて食べていたあれですかね。皆見てましたよ。
「とても気に入ったご様子だったでしょう」
そうなんだよね。マヨネーズをそこまで気に入ってもらえたら私も嬉しいなぁと、見てましたよ。
「お代わりを希望しそうだとは思いませんでしたか?」
「え?」
ミミリアの言葉に、侍女が小さく声を上げた。
「お代わりはあるかと尋ねられてから、調理場に確認に行くのですか?待たせてしまった挙句に、ないと伝えなければならなかったらせっかくの食事が台無しになると思いませんか?」
確かに。
追加注文した品が待っても届かないと、もういいやって食べる気が無くなったりするものね。
「お代わりしそうな様子があれば、先んじて調理場へ使いをやるよう他の者に伝え、持ってこさせるくらいの配慮をしなさい。お代わりが無いのであればそう伝えられるように確認しなさい。他のお客様も同様です。食べている様子をよく見なさい。食事が喉を通らない場合も原因を考えなさい。もし、喉が渇いてうまく飲み込めないようであればお水の用意を。嫌いな食べ物であるならば、代わりになるものの手配を。具合が悪そうであれば、そうである旨を責任者にそっと伝えなさい。責任者……執事や侍女頭などの判断でご主人様に報告が行きます」
立て続けに駄目だし指導をするミミリア。
言っていることはすべて、なるほどと納得できることばかりだ。
すごいなぁ。たかが料理を出すだけじゃないんだ。
一流の侍女たちの仕事ってすごい。




