有能な者たち
「リコ、あー、その……聞きたいことは俺がいる間は、俺に聞いてくれ。な?」
「もちろん。イザートにしか聞けないこともあるからね。これからも二人ともよろしく!」
イザートがいるならば、なおさらあれを作ろう。イザートの感想も聞きたい。
「じゃぁ、私、急ぐんで、あ、セスに渡すメモは書き直して持ってくね!」
侍女に代筆してもらおう。それからできればそれを見ながら文字を覚える勉強もした方がいいかも。1年後の生活を考えれば文字は読めるだけじゃなくて書けたほうがいいに違いない。
バイバイと手を振って二人に背を向ける。
「おい、セス、お前いつの間にリコとあれほど親しくなったんだ?メモって何のことだ?」
「イザート様、使用人の恋愛事情には主人と言えど口を挟むべきではありません」
「れ、恋愛?お前、まさかリコと……リコは、俺の聖女だぞ?分かってるのか?」
「ええ、分かっております。イザート様の聖女で、イザート様の恋人でも婚約者でも奥様でもございません」
「セ、セスっ」
何か会話しているようだけれど、とぎれとぎれで聞こえてきたので内容までは聞き取れないけど。メモの話が発端みたい。
そうだ、井戸を掘る道具とかセスに準備してもらうとかイザートにも言った方がいいかな……?夕食のときにでもいろいろ話をしよう。
「リコ様、どうなさいましたか?」
息を切らして料理場に飛び込んだ私に料理長が慌てて近づいてきた。
「何度もごめんなさい。あの、イザートが夕飯と朝食をこちらで食べるそうなの。で、油を……使った品を一つ、作りたくて。あー、菜種油をそれから」
材料を一通り伝えて道具もそろえてもらう。
「作り方を見させていただいても?」
「はい、もちろん。あの、それで油が追加で入ってきたら同じものをたくさん作ってほしいの。あの、アイサナ村の人たちにも食べてもらおうと思って……」
労働の対価として。普段食べない物。
そして、今までは食べられなかったけれど、もしかしたらこれからは食べられるかもしれない物。
麦の傍らで栽培すればいつでも食べられるようになるよと伝えたら、栽培する気持ちに前向きになれるんじゃないだろうか。
やらされてるよりも自分たちでやりたいと思って耕作地も広げてもらえるなら。
それが一番いい。そのために、もちろんお金になること。そして何より、美味しくて食べたいということを伝えられたら……。
「油は明日の朝には配達してもらえるはずです。どれくらい入ってくるかは分かりませんが」
もう注文してくれていて、しかも明日の朝には届けてもらえるんだ。
皆とても有能。




