ツンデレ?
「あー、素直にそうだって言われるのもなんだかな!ちょっとは俺と離れてて寂しいとか、ないのか!リコ!」
「いや、まだ1日経ってないし……」
ぷっと小さくセスが噴出したのが聞こえた。けど、顔を見ればいつもの無表情。えー。どんだけ表情筋鍛えて無表情を保てるんですか!
「部屋の鍵はビビカに預けてある。用があったらビビカに言って入ってくれて構わないからな」
え?
「いいの?」
勝手に入って、いいの?信用してもらってるってこと?
「ああ?いや、もちろん構わないよ。……セス、お前も必要があれば俺の部屋にはいればいい」
セスが意外だというように、右眉の端を少しだけ上げた。
「私を信用してくださるのですか?」
「執事としての職を失ってもいいと思うタイプには見えないからな。セスは執事である自分が好きだろう?」
セスがふっと小さく笑った。
「もちろんです。特に、少々手のかかる主人に仕えるのが私の喜びです」
「は?まさか、俺が手がかかるって言いたいのか?ちょ、リコ、セスってひどくねぇか?俺、手がかかるような人間じゃないよな?」
イザートは自分のことを理解してないのだろうか。
「山賊の娘をいきなり聖女として連れてくる主人、執事としては困るんじゃない?」
「そうですね。山賊の娘に仕えた経験はありませんから。大変戸惑いました」
ふっと笑うと、セスも私に同意するように深く頷いた。
イザートがああと顔を片手で覆う。
「いや、すまなかった。すまなかったって。リコに山賊の女頭目だとか言って悪かったし。セスだって、リコは違うってもう分かってるだろう!悪かったって!」
セスがまじめな顔に戻る。
「そう、簡単に使用人に謝罪するのは主人としての威厳が損なわれます」
イザートがしゅんと叱られた犬みたいにしょげた。
「ですが、自分の非を認め、使用人にまで頭を下げてくださる主人に仕えられることは嫌いではありません」
うわ。
ツンデレだ。
セスさん、ツンデレ、ツンデレ属性だっ!
「はぁ。リコの顔も見ることができたし。リコは、部屋にはいれて聞きたいことをセスに聞ければいいみたいだから……俺、領地に戻るわ」
「え?来たばっかりなのに?……ごめんなさい。なんかすごくイザートに迷惑かけちゃったみたい……」
往復するのにどれくらいの時間がかかるのか分からないけれど。とんぼ返りさせちゃうなんて本当に申し訳ない。
ちょっとしょげると、セスがコホンと小さく咳ばらいをした。
「よろしいのですか、イザート様?料理長が、満足のいくスープが完成したからとおっしゃっていましたが?私をはじめ使用人で味見をさせていただきましたが、大変素晴らしいお味でございました。そのスープを飲まずに領地にお戻りになるので?それは残念なことです」
「だ、だれがすぐ戻るって言った?夕飯を食べて、そう、明日の朝の朝食も食べてから戻る!もう、あたりは薄暗くなっているからな!暗くなってからの移動は危険、そう、危険だからだ。決して、食べ物につられて残るって言ってるわけではないぞ?」
ちょっとだけセスの肩が揺れている。笑いをこらえているのか、してやったりという感じなのか。
仕事をし過ぎないようにこうして無理にでもちょっと息を抜かせるってことよね。食事も睡眠も大切だし。




