スーパー執事
「なんか、お前の言い方、棘がないか?俺は、闇侯爵領のこと以外は確かに知らないが、それを恥ずかしいと思うことなんてないからな」
セスがいつもの無表情でイザートに答えた。
「それでよろしゅうございます。分からないことがあれば聞いていただければ私がお答えしますので。そのために、私たち執事はあらゆることを覚えております故」
「うわー、執事ってすごいのね」
分からないことを聞いたらすぐに教えてくれるくらい知識を蓄えるのってどれくらい大変なことなんだろう。そうだよね。この世界はインターネットもないし分からないことを調べるのも一苦労だ。聞いたらすぐに答えてくれる人がいるんならとても助かる。
「執事みんながこうじゃないからなリコ。皇帝宮で年を取らずに何年も知識をため込んだスーパーエリート執事が特別だ」
そういえば、皇帝宮では年を取らないと言っていた。そうか。年を取らないんだから、何年もかけて皇帝や侯爵に使えるために学ぶんだ。
「セスさんすごいです!スーパー執事ってカッコいい」
感動してほめたたえると、イザートが嫌そうな顔をした。
「おい、リコ、お前まさかセスのことす、す、好きになったんじゃないだろうな?」
「はいっ!」
思いっきり元気に答えると、セスさんがパッと視線をそらしてしまった。イザートは頭を押さえた。
「私、セスさんのことを信用することにしました。だって、セスさんはイザートが働きすぎないようにって気を使って必要のない頼まれごとを忘れたふりをしてるんですよ?イザートから無能だって思われるのを覚悟の上で、イザートの体調まで気遣ってくれる人なんです。私もイザートが働きすぎて倒れないか心配だから、セスさんがイザートの健康を考えてくれてるのはすごく嬉しいんです」
イザートが目をきらっとさせて私を見た。
「そうか、リコは俺の身を案じて。俺のことが心配で。俺のために働いてるからセスを見直したのか。俺のこと、そんなにリコは思ってくれてるんだな」
そりゃ、日本だと働きすぎて若くて命を失っていった人も健康を損なったり精神的におかしくなってしまった人というのは嫌というほどいましたから。私もその一歩手前くらいだったから……。働きすぎというのは本当に気が付いた時には取返しつかなかったりするんですよ。
「ずっとリコのそばにいていつでも質問に答えてやりたいが、働きすぎない程度に俺にもやらなくちゃならないことがあるから……俺の代わりにセスに聞いてくれ」
うんと頷く。
「リコが俺と離れたくないっていうなら、一緒に闇侯爵領に来てもらえばそれでいいんだけどな……リコはここでしたいことがあるんだろう?」
うんと、もう一度頷く。
「ありがとうイザート」
私のことを分かってくれてると思うと胸が温かくなった。




