無駄なの?
……ほんの少しだけ枯れずに残っていた麦、あれだけの量では何人が秋以降食べられるのか。支援する食料はどれくらい必要になるのだろう。そのあたりは頻繁に日照りになってるなら支援の記録もあるかもしれない。それも土侯爵領なら支援してるなら私がいろいろ村人に必要な物を聞いて準備する必要さえないかも。
「私……、まったく役に立たない、方向違いなことしてから回ってるのかなぁ……」
ぼすんと、机につっぶす。
「また、救われない」
おばあさんの希望を失ったような目を思い出す。
ミーニャちゃんたち子供たちのやせ細った手足を思い出す。
おばあさんの絶望は未来への絶望だ。自分がたどってきた人生と同じことが子供たちに繰り返されるその未来への絶望。
バッと顔を上げる。
「資料があって、今まで通り同じことしてたって何も変わらないんだから。私のしてること、まったくの無駄じゃないっ」
やってることは役に立たなかったとしても、今まで通りと違うことを試してみようって思ってもらえるようになるかもしれない。そうすれば全くの無駄にはならない。
日々のことに必死になればなるほど頭は働かない。このままでいいはずはないと思っていても。動けない。
だけれど、子供たちは笑顔だったのだから。私が掘った井戸……いいえ、もしかしたら掘ったけれど水が出なかった井戸もどきになるかもしれないけれど。
それを見て、子供たちの柔軟な心と頭で「井戸を掘ってみよう」って思う子が現れるかもしれない。
「半日村」という絵本を思い出した。山のせいで日が当たらず作物がろくに育ったない村。大人たちはあきらめていたけれど、男の子が一人で邪魔な山を削りだす話だ。
「よーし!明日からは井戸掘り!それから村の人と話もしたい。麦以外の野菜を作ったりしてるんであれば、その端にでも育ててもらいたいものがある。いや、なんなら雑草を刈り取ってそこを新しい耕作地にしちゃって、そこで栽培してもらう?」
耕作地を作るのも簡単じゃないか。……でも、正直……今なら、畑の作物ほぼ全滅しちゃってるから、村人畑仕事もないし暇なんじゃないの?
そうだよ。だったら働いてもらえばいい。
……とはいえ、聖女の命令で働かされたなんて思われたくないよね。
うーん。手伝ってもらった人には相応の賃金……いや、お金よりも食料か。支援とは別のちょっと普段は食べられないような物。甘い物?お菓子?
ダメだよね。甘い物は中毒性があるっていうし。その後も食べたくて仕方がないとか思っても食べられないとか申し訳ない。砂糖とかはちみつって安くはないんだよね?
安くないといえば油……。
油の魅力が伝えられたら、耕作地を増やして別の作物を作るのにも積極的にならないかな?
揚げ物ほど大量に使わず、且つ、油の魅力を伝えられる食べ物。
「よし!あれしかない!あれだ!私が食べたい!」
部屋を飛び出し、再び調理場へと向かう。その途中、セスさんを見つけて、メモを手渡す。
「リコ様、これは?」
セスさんが戸惑った表情を見せる。
「予算的に無理?必要な物をかきだしたのだけれど……」
「いえ、申し訳ございません。私の勉強不足で。どちらの国の言語でしょう?」
え?
普通に会話もできるし、本も読めたから忘れてた。日本語でメモしたけれど、この世界の言語って、日本語じゃなかった。私、書くことだけはできないのか……!脳みそが勝手に手をこっちの文字で動かすというのだけはできないんだ。
急いでセスの手元から紙を取り戻そうと手を伸ばす。
「あっ」
セスの手に、私の手がぶつかってしまった。
「ごめん、セスさん、勢いよくぶつけてしまって痛かった?」
セスの手をとり問題ないか確かめる。
まだ、異世界から来たとばれたくない。他の言語と比較されてこの世界には存在しないと知られてしまう可能性がある。証拠となるメモを渡したままにしておいては駄目だと焦りすぎた。
「痛くない?ごめんなさい……」
セスさんの右手を両手で持ち、手が当たってしまったであろう手の甲を見て腫れたり赤くなったりしていないか確認する。
「あの、リコ様、手を……」
セスさんの声にかぶさるように、背後から低い声が聞こえた
「ああ?どういうことだ、これ」
振り返ると、イザートの姿があった。
「おい、セス……。リコが俺に会いたいようだからと連絡があって飛んで帰ってくれば。二人の仲を見せつけるために呼びつけたんじゃないだろうな」
低い声。イザート、怒ってる……。




