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■加護なしハズレ闇侯爵の聖女になりまして~ご飯に釣られて皇帝選定会に出ています~  作者: 富士とまと


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広めよう

 料理長が首を縦に振った。

「葉も皮も食べられます。庶民は皮はむきませんし、葉が付いたまま洗います。葉も食べますから……」

 あ。

 そうだ。人参は毒があるわけでもなく、丸ごと食べられる野菜だ。

 スーパーでは葉がついて売られていることはめったにないから、食べないだけだ。栽培している人は、普通に食べているし、レシピもたくさんネット上にも公開されている。

 もちろん葉は人参とちがって長期保存ができないから、時期によっては葉を落とした人参しか手に入らないこともあるだろう。

 だけれど、こうして目の前に葉のついた人参があるのならば、わざわざ落として捨てる必要はない。

「私は、いろいろなお屋敷で料理をしてきました。いつも料理をしながら、葉っぱを落とし皮をむき、貴族が口に入れるための加工をするたびに、捨てられる食材に心を痛めてきました。食べる物が無くて飢えている人がいるというのに。我々は、まだ食べられるものを捨てている……と。見て見ぬふりをしようとしても、どうしても心が痛む」

 料理長はいい人なんだ。

 目の前にいない人達のことで心を痛めるなんて。

「えーっと、人参の葉や皮は捨てるの?料理には使わないの?」

「それはもちろん。庶民と同じ食事を出すわけには参りません。他の貴族の方々がゴミとして処分しているものを食べさせては罰せられることもあります」

 あれ?

「鶏ガラスープは大丈夫だったの?鶏の骨は他の貴族の人は使わずにゴミにしちゃうんだよね?」

 料理長がちょっとばつの悪そうな顔をする。

「いや、ばれなければいいんですよ。形が無いものは、何だと食べることにしか興味が無くて作らない人間には分かりません。それに、食べて美味しければ文句もありませんから」

 こそっと使う分にはいいのね。

「じゃあ、おいしい料理にしちゃって、出しちゃいましょう。人参の葉っぱは、ポタージュスープになります。こし器の出番です」

 ニヤッと、料理長に笑ってみせる。

「人参の葉とニンニクを柔らかくなるまで煮て、すり鉢ですってからこし器でこします。そこにコンソメと牛乳を加えて煮ればできたはずです」

 本に書いてあったレシピだ。あいにくと人参の葉を手に入れる機会がなかったから作ったことはないんだけれど。ニンニクと組み合わせるのか。どんな味なんだろうととても気になったので覚えていた。

「それから、人参の皮は、チップスにしましょう。……貴族の口じゃなくて、使用人のおやつにしちゃっても構わないでしょう?」

 料理長が困った顔を見せる。

「我々使用人用に仕入れる食材とは別なのです。我々がご主人様用の食材を用いて調理をするわけには……」

「はぁ?ゴミとして処分するんでしょう?もう、ゴミになった時点で、ご主人様用の食材じゃなくなるでしょ?」

 料理長がハッと目を見開く。

「確かに……。そういう言い方をすれば……。捨てるはずのもの、いや、いったん捨てたものならば、それをどう使おうと……横流ししたと言われるようなこともないかもしれないです」

 横流しって。そうか。もう、めんどくさい。

「イザートならそんなこと言わないと思うけれど、もしかしたら他の貴族は言いがかりをつけてくるかもしれないのね?だったらやっぱり、おいしいものだって分からせて、捨てるなんてとんでもない!と思わせる料理にして広めましょう。食品ロス削減、大賛成だわ!美味しいものとして分かれば、作り方も知りたくなってレシピも売れるんじゃない?広めよう、広めよう!」

「はい!頑張ります。商会の話も、1割と言わず私の取り分はいりません。全部、社会福祉に使ってください!」

 料理長の目に情熱が見える。

「いや、それは駄目。うん、どれくらい売れるか分からないけれど、お金は受け取って。もし、そのお金で料理長の懐が温まっているのを見たら、他の人もレシピを売りたいって言ってくれるかもしれないでしょう?レシピだけ取られると思われたら、他の人からレシピが集まらなくなっちゃうわ」

 料理長が目を見開いた。

「なるほど。確かに……。リコ様は、物知りなだけではなく、お優しくて、美しいだけではなく、その上に賢い……」

 うわー。褒められた。けど、なんか、私のことじゃないみたいな言葉が混じってる!

「ところで、そのチップスとは何ですか?」

 え?チップス、ない?……ああ、地球の歴史でも19世紀に誕生したという説があるものね。


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