レシピ使用
見てしまった。知ってしまった。
触れ合ってしまった。
アイサナ村の人たちが飢えて亡くなってしまうかもしれないと、頭の片隅に置きながら私だけが贅沢な食事なんてとても平気ではいられない。
だから、皇帝の勝敗とは全く関係なく、できることをしたい。ほんの小さなことしかできなくても、何もしないままいられないよ。
どれだけの支援ができるのか。
セスさんは予算には限りがあると言っていた。当たり前だ。
お金。私が生きていくためのお金。
そして、誰かを助けるためのお金。
両方、欲しい。
そういえば、ゴードンさんはこし器と蒸し器をギルドに登録すると言っていた。使用料が入ると。
……マヨネーズとか、料理のレシピはどうなんだろう?
日本だと、料理には著作権などの権利がないという話だけれど。読んだ異世界の物語では、レシピも登録してお金が入る仕組みがある世界観のものもあった。
「ねぇ、料理って、レシピとか売っていたり、使用料が必要だったりするの?」
尋ねてみてから、ふと思う。
目玉焼きに、醤油をかける人、塩をかける人、それをレシピとして登録なんてされていちいち使用料など取られる世界は不便すぎる。醤油とマヨネーズを混ぜたものが新しい調味料として扱われても不便だ。誰でも思いついてちょっとした工夫でできてしまうものに、誰かの許可が必要なんてありえないだろう。これは簡単な例だけれど、誰でも工夫しているうちにたどり着き思いつくものを、無断でレシピを使ったとか、自分の方が先に開発したんだと言い出されたらきりがないよね。
鍛冶屋が商品を登録するのは、鍛冶屋という専門家の仕事だからだ。
料理は仕事にしている人もいるけれど、人類の大半が生きていくためにする、生活の一部だもの。
「使用料ですか?聞いたことはありませんが……。そのマヨネーズには使用料がいるのですか?」
「あ、ううん、そうじゃないんだ。そうよね、使用料なんてないよね」
メイの返答に、マーサが補足する。
「使用料はありませんが、レシピは売っていますよ。だいたい1枚から2枚の紙に1つの調理の仕方が書いてあるレシピが売っているんです」
レシピを売ってる?
「例えば、貴族のお抱えの料理人など、侯爵様がいついつに食べたレシピだとか、舞踏会で皇帝陛下が食べたレシピだとか売っていますよ。街の食堂でも頼まれれば売ることもあるみたいですけれど、文字が読めないので庶民が買うことはほとんどないですが」
なるほど。秘伝のレシピだの企業秘密だのそんなことではなく、売ってしまうのか。
文字が読めないから庶民は買わないのか。確かにそうか。絵や写真だけでは説明できない部分もあるもんね。
「まぁ、欲しいと思っても、なかなか手に入らないんですけどね」
マーサが残念がった。1つのレシピが高価なんだろうか?数が出ない分値段が上がる?
「欲しいレシピがあるんですけど、1年待ちとかざらなんですよ」
「待つの?」
「そりゃ、人気のレシピは待ちますよ。1日に書ける量は決まってますし」
書く?
「手書きなの?」
マーサが首を傾げた。




