不安な夜
「あのぉ、リコ様……今度は料理のお話ですか?マヨネーズとは何でしょう?カボチャのスープのように美味しいものですか?またぜひ味見をします!」
マーサがにっこりと笑った。
「あ、いや、メイク道具の話をして……あ、マヨネーズも食べたことないの?」
「はい!聞いたことがないですが、美味しそうです!」
……名前だけで、おいしそうだと感じるなんて、すさまじい嗅覚の持ち主……ね。
そうか。マヨネーズもないのか。料理長に教えて作ってもらおう。
私が知っていることが、役に立つようでうれしい。けれど……。
その一方で、おいしいものを食べることも、化粧で美しくなることも……何もできない人達もいると思うと、複雑な気持ちになる。
……おばあさんの言葉を思い出す。
救われない。
いっそ、廃村になれば街に行くこともできるのに……と。
生かさず殺さずの状態……。
もし、村を出て行けば少しは生活がマシになるのかな?
ううん、きっとそう簡単じゃないのかもしれない。何もかも捨てて身一つで都会に出ても……。
日々暮らしていくことに必死にならないと無理だろう。贅沢できるまでには何年かかるのか。住むところさえ見つけられないかもしれない。
スラムのような場所で一生を終える可能性だってある。
少なくとも……。
ミーニャちゃんに笑顔はあった。
痩せて、ボロボロの服を着ていたけれど、それでも笑顔はあったのだ。他の子どもたちだって声を上げて走り回っていた。
決して不幸だということではなかったんだと思う。
でも、大人であれば、日照りが続けば不安になるだろう。明日はどうなるのか、考えるは辛い。
家賃が払えるだろうか。電気が止められてしまったらどうしよう。母の病気がひどくなってしまったらどうしよう。妹がこのまま母のようにおかしくなってしまったらどうしよう。給料日まで、お金は持つだろうか。冷蔵庫の中が空っぽになってしまう。明日も、食べられるだろうか……。
考えると気がおかしくなりそうだった。夜になると、布団の中にはいると、ぐるぐると不安が心の中を渦く。
胎児のように体を丸めて布団の中でぐっと朝が来るのをひたすら待つのだ。
思い出しただけでも、鼓動が早くなる。
日照りが続いても大丈夫だという安心できる何かがあるだけで、全然幸福度が違うんじゃないだろうか。
最終的には、水侯爵が雨を降らせに来てくれるとしても。雨が降っても作物が生き返るとは限らない。
実際、アイサナ村の作物たちは、もう枯れてしまって秋の収穫は見込めない状態になってしまっている。
そんな時に必要なのは食料の支援になるけれど……。過去の記録には書かれていなかったけれど、支援が間に合わなかったとかないのだろうか。
十分な量の支援が行き渡るのだろうか。……もし、全国的にひどい不作が起きていたら。
パンデミックでも起きてそれどころではなかったとしたら。
……。




