宝石を売る?
「ドレスではなく、ズボンとシャツですか?失礼ですが、リコ様は正真正銘の女性でいらっしゃいますよね?」
おや。この世界だと女性がズボンというのはずいぶん特殊なのかな。
「セスさん、女でも当たり前にズボンを履く地域が世の中にはあるんですよ。スカートよりもズボンの方が動きやすいんです。セスさんがスカートを履いてみたら分かりますよ」
セスさんがうっと言葉に詰まった。
「私が、スカートを……」
あ。想像してしまった。しかめっ面の男性のスカート姿。
「いえ、ああ、実際に試さなくて大丈夫ですから。その、とにかく、汚れてもいいズボンとシャツをお願いしてもいいですか?それから、スコップとバケツとロープ……えーっと、あとは」
穴を掘るだけならスコップだけでもいいだろう。でも、深い穴……井戸を掘るならば、穴の底から土を出すバケツも必要だろう。それをロープで引っ張る。深くなれば上り下りのための梯子も必要になってくるはずだ。
……というか、1人だと効率悪そうだなぁ。少し工夫したほうがいい気がしてきた。
やぐらを組んで、滑車を設置。そうそう、滑車といえば動滑車を井戸に付けようと思っていたんだ。水のくみ上げが少し楽になるはずだ。
井戸掘りのときにまずは試してみようか。やぐらを組むなら、木材。それから縛るロープ。
ビビカが聞き取りしてくれた、足りないもの。食料は、今年じゃなくて来年だって言ってた。来年か。
来年支援したほうがいいのだろうか。今から準備して渡しても倉庫とか2年分も入れておくことはできないだろうし。
今年は冬は越せるのかな。秋に収穫するつもりだったら、冬から食料が不足するんだろうか。
次に収穫できるのは、来年の秋?冬から秋までの食料が不足するっていうことで間違いないのかな?
「リコ様、必要な物があれば、何でも準備させていただきますが、数があるようであればメモを取ってもよろしいでしょうか?」
考え込んだ私にセスさんが声をかけてきた。
「ああ、ごめん。えーっと、私が書いて手渡す……じゃなくて、侍女にメモしてもらってそれを渡せばいいかな?」
「そうしていただければ助かります。予算には限りがありますので、ご要望にお応えできないこともありますが」
「え?予算に限度ってあるの?」
いや、当たり前なんだけど、村を救うための支援のためならある程度の額でも大丈夫なのかと思っていたふしはある。反省。
「皇帝選定のための予算の割り振りの最終的な責任者はイザート様ですので、金額についてのご相談はイザート様にご相談ください。宝石の1つや2つはよほど高価でなければ買うだけの予算はあるはずですが、それ以上のものとなると……」
「へ?宝石?いや、宝石なんてあっても……あ、宝石を渡せば、困ったときにはそれを売って現金にして必要な物を買ってねっていうこと?」
こちらから必要な物を聞き取ってそれを用意するより便利かもしれないけれど、めんどくさいんじゃない?村人が街まで行って買い付けたりしないといけないとなると……。現物を届けてもらった方がありがたい気はする。
と、首をかしげるとセスさんも首を傾げた。
「はい?どなたに渡すおつもりですか?売るなどとんでもない。そのような横流しのようなことは許されません」
セスさんににらまれた。
「あ、そうなの。じゃぁやっぱり現物をアイサナ村に届けたほうがいいわよね。冬からの食料支援……どれくらいの量が必要なのかとか分からないから、改めて調べないと……」
ビビカに聞き取りを頼んだけれど、やっぱり細かいことは私が行って確認しないと駄目だよね。




