欲しいものはなんですか
「リコとしてっていうけど、闇聖女として掘ったらいいんじゃない?」
結局私が掘るんだし、違わないよね?
「他の侯爵領だから、本来は好き勝手できないけれど、指定された地域に限り皇帝選定のための行為はすべて許されるでしょう?リコ個人じゃなくて、闇聖女としてっていうなら何やってもオッケーでしょ」
「へーそうなんだ。エドは詳しいね」
「リコはなんで知らないの?」
……いや、え?これってこの世界の常識なの?
「闇侯爵にやる気がないからか……」
ん?エドはイザートのことも知ってるの?
「リコー!」
ビビカの声に上空を見上げる。
「いっぱい話聞いたよー!」
あっという間に巨体が地面に影を作る。
「これ、ありがとう。じゃぁね!」
ビビカが降りる前に、エドは枝をちょいと上げて、走って行ってしまった。村とは逆の方へと。やっぱり村人じゃなかったのね。いったいどこから来たのだろう。一番近い街にも歩いてくるには結構な時間がかかるはずだ。
バサバサと大きな翼の羽ばたきで、土ぼこりが舞う。
「うーんとねぇ、去年はちゃんと収穫できたから、今年は食べる物あるんだって。だけど来年は食べる物もないだろうし、作付するための種も足りなくなるだろうから、なるべく食べずに残しておかなくちゃいけないんだって。だから、欲しい物は結局食べる物って。誰に聞いても食べる物が欲しいって言ってたぞ」
あー、そうだよねぇ。
今年は去年の収穫で食べられても今年収穫できなきゃ来年食べる物がない。食べる分だけでなく次の作付用の種……も、無くなるわけだ。
上空から見下ろすと、土は水を含んで生き返っていても、すでに枯れてしまった作物はどうしようもない。ほとんど茶色く変色している。
「麦……とか大麦だっけ……。ぽつりぽつりと少しずつ残っているだけ……か」
緑が広がっているところもあるけれど、畑じゃないところだ。雑草は生命力が強いね。
……雑草といっても、何か食べられるものがあればいいのに。日本だと、普段は食べないけれど、食べられる草は結構あるよね。七草とか。
それに、よもぎ、どくだみ、たんぽぽ……。
たんぽぽって、コーヒーが有名だけれど、春は若葉をサラダとして食べることができて、ビタミンAやC、鉄分など栄養豊富なんだよね。
秋には根を収穫して、ゴボウのように食べたりお茶にしたりできる。
根は時には1mと地中深くにまで伸ばすから生命力も強い。
「あの緑の雑草たち、食べられないのかなぁ……」
食べられるものなら、とっくに村人は食べてるか。
おばあさんが言ってた。10年に1度は干ばつに見舞われると。食べる物に困った過去の人たちが試さないわけはない。
闇侯爵邸に戻って、早速必要な物をそろえることにした。
「セスさん、いろいろと欲しい物があるのですが、お願いしてもいいですか?」
セスさんが少しだけ眉毛の端を上げた。
どういう意味合いの表情だろうか?
「闇聖女として必要なものは部屋にすべて準備がされているはずです。舞踏会を開きたいという話も耳にしましたが、そのためのドレスなどでしたら」
は?舞踏会を開きたい?そんなの私は言ってないけれど。……おっと、なんか料理を披露するために食事会か何かすると言っていた話かな?
いつの間に舞踏会にすり替わってるんだろう?セスさんが勘違いしているだけ?というか、セスさんのあの眉毛が少し上がった表情からすると、決して歓迎している感じでもないよね。うん、舞踏会は無し無し。
「ドレスはいらないけれど、服が欲しいですっ」
「ドレスではない服と言いますと?」
「ズボンとシャツ!これだけだと、洗い替えがないので」
今度は、セスさんははっきりと眉根を寄せて怪訝な顔をした。




