口から砂を吐く?
「何してるの?」
「ダウジング」
「ふぅーん。で、ダウジングって何?」
「ダウジングっていうのは、地中の見えないところの水脈や金脈を探し当てるための方法で……」
え?私、今誰と会話してるの?
声のした背後を振り返ると、茶髪の青年が経っていた。
20代の半ばか後半かといった感じ。
180センチほどの慎重に、中肉の体系。イメージとして……サッカーやってそうなさわやかな感じだ。さわやかで、整いすぎてないイケメン。親しみやすいイケメンっていえば分かるかな。
村人にしては、肉付きがいい。みんなガリガリだったもの。誰だろう?
「ええ?すごいね、闇聖女ってそんな魔法が使えるの?」
「魔法じゃないよ。なんか、占いみたいな?……実際、ダウジングって効果が無いっていう実験結果もあったりして……本当に水脈や金脈を探し当てられるわけじゃないの」
青年が首を傾げた。
「効果がないって分かっているのに、なぜダウジングやってるの?おかしくない?」
最もな質問ですね。
「踏ん切り?どこを掘っても一緒って言われても、どこを掘ればいいか分からないから、反応したところを掘ろうかなぁって……」
「ふぅーん。ここにしよう!って自分で決めればいいのに。で、掘ってどうするの?」
青年と話しながらダウジング用の棒を持って歩くのを再開すると、青年が私の横に並んだ。
「井戸を掘りたいの。だから水脈を探してる」
青年が小さい声を出した。
「井戸なんて掘っても無駄じゃない?」
「え?無駄って?」
「水侯爵に勝てるわけないじゃん。干ばつ解決対決なんて、水侯爵や風侯爵の勝利が決まってるようなもんでしょ?悪あがきしても仕方ないよね?」
そういえば、この青年は私のことを闇聖女だと知っているみたいだ。皇帝選定勝負のことも知っているのか。
「あー、これは闇聖女としてしているわけじゃないのよ。私……リコとしてしてる。悪あがきというよりは、自己満足?」
「は?自己満足?何、リコは井戸掘りが趣味なわけ?」
「ふふふ、違う。井戸を掘るのは初めてだから、楽しければ趣味になるかもしれないけど、今のところ趣味というわけではないかな。えーっと、あなたはここで何を?」
突然こんな何もない畑の真ん中に現れた青年に質問をする。
もしかしたら、皇帝選定会の審査員的な人で、様子を見に来たのかな?とか実は思っている。
肉付きもそうだけれど、服装も村人たちのボロ布に比べたらずいぶんマシだ。洗っても落ちない汚れがついているのか、薄汚れた感じはするけれど清潔そうだし、薄茶色のズボンもウエストをベルトで絞めているチュニックも、穴は空いていない。
そもそもさわやかイケメンの髪も肌もきれいすぎて。貴族がお忍びで出歩いている感が半端ないですよ。服装だけどっかから借りてきたみたい。
「暇つぶし」
「え?暇つぶし?むしろ、こんな場所じゃ暇しかないんじゃない?」
言い訳するにしてももっとましなことは言えないものか?
「あっ、動いた!」
ちらりと青年の横顔を見ると、興奮気味に青年が声を上げた。
「え?え?」
動いた?
視線を青年の指先に向けると、私が持っていたダウジング用の棒がういんと、角度を変えた。
「あ、本当だ。反応があった。この辺を掘るといいのかな。印つけておこう」
とりあえず足で、地面をひっかいてにバツ印を付けて置く。
「自分で動かしたんじゃないの?木の枝が勝手に動くわけないじゃん」
そうだね。ダウジングって実際は人間が無意識に動かしていると言われてるよね。でも、動かしているという意思はないわけだし。自然と動いたと言えるような言えないような。
「やってみる?」
とりあえず、説明も難しいので、青年に枝を渡した。
「え?僕もやっていいの?」
青年が嬉しそうに笑い、枝を受け取って両手で端を握って歩き出した。
どうしようかと思ったけれど、青年の隣に並んでついていくことにした。
「動かないね。やっぱりリコは自分で動かしてたんだよね?」
青年の手元を覗き込むと、力いっぱい枝を握り締めていた。
「枝が動こうとしたときに、そんなに力いっぱい握っていては動こうにも動けないわよ?ゆるーく、手に握るの。ほら、力を入れないで、手を輪っかにしてそっと添えるくらいにして」
青年のぎゅっと握っている手に触れて、力を抜くようにと伝える。
「ちょ、リコ……」
青年が焦った顔を私に向けた
「さ、さ、触ったよね?僕の手、今……」
ありゃ。
「ごめん、えっと……」
触っちゃ駄目だったかな。びっくりして青年から手を放して、後ろに伸びのく。
この世界ではむやみに人の手に触れてはならないみたいなルールがある?いや、とりあえず聞いたことないし。侍女たちに勝手に触られたりしてるし。イザートも私の断りもなく抱き上げたり……してるよね?
「なんともない?」
青年が私の顔を心配そうに見ている。
「え?なんとも、ないけれど、その、あなたこそ……私に触られてなんともない?」
青年がなおも私の顔を見ている。
「えーっと、口の中に土の味がするとか、髪の毛から砂が零れ落ちるとか、本当になんともない?」
「口の中に土の味?」
土ってどんな味だろう。
「なんともないけれど……」
首をかしげると、青年が手を伸ばして私の手を握りしめた。




