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はじめての井戸

 確か、愛知用水なんかは100キロくらいの距離があったよね。上空から見た感じ、川から村までの距離は20キロほど。

 ……難しいか。そもそも、水の利権をめぐって戦争も起きたりするくらいだし、川の水を使わせてくれということが許されるかどうかも分からない。

 川がないのだから、ダムやため池も作れないんだよね。

 飲み水は井戸から取っていた。

「おばあさん、井戸ってどれくらいの深さ?」

 突然の質問におばあさんが首を傾げた。

「どれくらいと言われてもなぁ、見たほうが早いじゃろ。来なさい」

「え?でも、私……」

 おばあさんが村に向かって歩き出したので後ろをついていく。

 村に入ると、やはり村人たちの視線が痛い。……歓迎されていない。

「井戸はあそこじゃ」

「ありがとう、後は、大丈夫だから……」

 私と一緒にいては、おばあさんが村人に悪く言われるかもしれないと、大慌てで井戸まで走り寄る。

 井戸は直径が1mくらいのものだ。中を覗き込んでも、暗くて水面がどれくらい下にあるのかよく見えない。

 屋根があって、滑車が設置されている。底に取り付けられているロープの先に水汲み用のバケツが用意されている。

 バケツを井戸にほうり投げると、ぼちゃんと水音が聞こえた。すぐに、ロープをひっぱりあげ……。

 何、これ。重たっ。

 バケツの大きさからすると、4リットルくらいは入るだろう。バケツの重さも含めて5キロほど。

 たった5キロ……が、ロープを引っ張って上にあげようとすると何倍にも重たく感じる。腕の力だけで引き上げるのはかなり大変だ。

 やっと、バケツが見えた。バケツをつかもうとした瞬間、ロープを持っていた手の力が緩んで、重たいバケツはそのまま井戸の底へと落ちて行ってしまった。

「っつ!」

 勢いよく落ちていくバケツにつながったロープが、握っていた手の間をしゅーっと擦っていく。

 摩擦の暑さと、ロープが皮膚を傷つける痛み。

 慌てて手を放したけれど、痛みを感じた手のひらを見ると血がにじんでいた。

「あははは、見ろよ、闇聖女様はロクに水も汲めないらしい」

「どうせいつも召使とかに全部やらせてるんだろう」

「水聖女様のように魔法も使えない役立たずのくせに優雅に暮らしやがって」

「ざまぁみろだ」

 痛みで顔をゆがめる私を、村人たちが笑っている。

 少しも、腹も立たない。その通りだから。何も反論できない。

 ポケットからハンカチを取り出し、傷ついた手の平に巻き付ける。

 そうして、再びロープを引っ張り上げた。

「これは……思った以上に重労働だ……」

 井戸から水をくみ上げて畑にまくことはできないのかなんて思ったけれど、そんなに甘いものじゃない。

 いや、軽い力で引き上げる方法があった。定滑車と動滑車。

 井戸には屋根がついていて、その屋根を支える柱に定滑車が取り付けられている。ということは滑車は存在するんだ。

 動滑車を付ければ、滑車の重さが余分にかかるけれど、半分の力で引き上げることができる。引き上げる距離は長くなってしまうけれど……。

 2つ取り付けるだけの場所はありそうだ。小さな力で引き上げられるバケツと、引っ張る距離が短い今のままのバケツと二つ用意したってかまわないんじゃないかな。

 水を汲んで、畑に運んでまく。

 バケツで運ぶのでは効率が悪い。


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