だいすき
「ありがとう、イザート!なんかすごく気持ちが軽くなった。アイサナ村に早速行ってくる!」
すくっと立ち上がる。
「あ、リコ、1年と言わず、その先も闇侯爵領の屋敷に、ああ、ちょっと、リコ、まだ言いたいことがっ」
コツコツと大股で食堂の出口に向かって歩き始めた私に、イザートが何か言っている。
申し訳ないけれど、今の私は一刻も早くアイサナ村に向かいたくて仕方がないのだ。話なら、夕食の時でも構わないよね?
聖女の役割がどうとか、人の上に立つのがどうとか、難しく考えすぎてた。家族のために働くのが苦にならない、むしろ誰かのために何かをしていたほうが幸せを感じる人間なんだよ、私。
何ができるかとか考えるより、何でもいい。できることがあるかもしれないって動いていたほうがいい。
必要な物はないかと話を聞いて伝えるってたったそれだけのことだって、誰かのためになるんだよ。その必要な物の準備をそのあと手伝ったり、運んで配るのを手伝ったり、きっとすることはたくさんある。大きなことはできなくたって構うものか。どうせ聖女の力のないただの女だ。
大きなことなど初めから誰も期待してやしない。それなのに、大きなことをしなくちゃと思うからおかしくなっちゃうんだ。
食堂を出て廊下を歩いて部屋に戻る間に、晴れ晴れとした気持になった。
「私は今日もアイサナ村に行くので、ズボンとシャツをお願い!ビビカよろしく!それから皆はいろいろお互いに教えあいながら成長していって!そうね、お風呂上がりのマッサージもお互いにやってみるといいと思うわ。力の入れ具合なんか、やっているばかりではなくやってもらうことで気が付くこともあるでしょう。あとはそうねぇ、花瓶に花を活けるにしても美しさが必要よ。私の故郷では生け花の師匠など、花を活ける専門家がいたくらいなの。学ぶことはたくさんあると思うけれど、頑張ってね!私も、私がすべきことを頑張ってくるから!」
バタバタと指示を飛ばして着替えて屋敷を飛び出すと、ビビカがすでに待っていてくれた。
「ビビカ、今日はよろしくね。あ、私が村にいる間ビビカはどうするの?」
「村の周り飛んでるよ。最近ちょっと空を飛ぶこと少ないから。何かあったら呼んでくれればすぐに行くから大丈夫。5キロくらいなら声が届くんだ」
「ビビカすごい!耳がいいのね!」
ビビカの大きな顔をなでなでしてぎゅーっとする。
いつものダメージズボンとむら染めのシャツに着替え、目の前にはビビカがいるけれど、はたと気が付いてしまった。
どうやって、ビビカの背中に乗ればいいんだろう?いつもイザートに抱えられて乗っていたんだった。
「俺様の羽を使えばいいぞ」
ビビカが畳んでいた大きな羽を広げて、先を地面にくっつけて伏せた。滑り台のように斜めに背中までつながる。
「ありがとう、ビビカ。ビビカは本当に気が付く素敵な聖獣だわ。かっこよくてキレイでかわいくてもふもふでその上紳士的で、最高ね!」
よじよじと、ビビカの羽根を四つん這いになって登りながら思ったことを口にする。
「うへへ、リコもかわいくて美人で優しくて賢くて、最高だよ!」
「ビビカは口もうまいのねぇ。でも、ありがとう。大好きっ」
「俺様も、リコ大好きだぞ」
背中のぷにぷに座席に乗ると、ビビカが大空へと飛び上がった。




