守られ……?
「侯爵と聖女、俺たちは二人で一つだ。家族みたいな、いや家族以上の関係だからな。いつも、俺がいることを思い出してくれ」
家族以上……。
涙が落ちる。また、家族を思い出して泣いていると思われただろうか。
いや、間違いじゃない。家族のことを思い出している。
高校を卒業して働きながら、母親の介護と不登校の妹の面倒と、生活費を稼ぎながら明日の心配をしながらの日々。
助けて、助けてと、誰かに弱音を吐きたくても吐き出せなかったあの時。
一人で抱え込むなと……あの時欲しかった言葉。あの時、ずっと、ずっと欲しかった言葉を、なぜイザートは私にくれるの……。
「あああああっ」
声を上げてみっともなく泣いてしまった。
イザートの胸に顔をうずめて。止められない。涙が、止まらない。
「リコ……」
ふわりと、イザートが覆いかぶさる。優しく抱きしめられている。
温かい……。
「俺がいる。俺が、守ってやる……」
ぎゅっとイザートの腕に力が入った。
守る?私を?イザートは、誰に守られるの?ハズレ侯爵と蔑まれて傷ついたりはしていないの?
領地運営で何か事件が起きて、領民が不幸になってしまって、ひどく落ち込んだりしないの?
そんな時は、イザートは誰に心を守ってもらっているの?
「イザートも背負い過ぎないで。私のことを背負わないでいい。守ってもらおうと思ってないよ。ねぇ、イザート、支え合おう。家族とか家族以上の存在ってそういうものでしょう?ね?」
涙が吹っ飛んだ。
自分でもおかしなもので、私は誰かに甘えるとかがどうにも苦手なようだ。守るなんて言われて、くすぐったくなってしまったし。
むしろ、守りたいと思ってしまったんだから。……長女だからなのかな。関係ないか。
「あっ、ははは、リコ、確かにそうだな。俺は、もうリコに支えてもらってるな。守るなんておこがましい話だった」
「え?私が、イザートを支えてる?何もしてあげれてないよね?」
使用人にはいろいろ教えたりもしたけどイザートには特に何も……役に立つようなことしてない。それどころか衣食住すべて面倒見てもらってるし。今だって、胸を貸してもらって……。
急にイザートの胸に顔をうずめて泣いたことが恥かしくなって顔を伏せる。
私ったら、なんてことを!
「はっは。使用人の信頼を得られたのはリコのおかげだろ」
使用人の信頼?
「それに、食べたことのない美味いものが食べられるのは、娯楽の少ない皇選宮でのとびきりの楽しみだ。1年間耐えられるか心配だったが、リコがいてくれるおかげで乗り切れそうだ」
そうなんだ……。
ふっと、心が軽くなった。
贅沢していいのかと、野菜ジュース一つが苦くて飲み込めなくなってしまっていたけれど。これはこれで必要なことなのだと……。
イザートのためになっている。――まぁ、後で搾りかすレシピは伝えておこう。食材を無駄にしないのも大切なことのはずだ。……いや、これは料理長ではなく侍女に教えたほうがいいのかな?調理場で出たものでおいしいものを作って楽しめるよと。違うか、賄い料理や使用人の領地に応用してもらえばいいんだから、やっぱり料理長に伝えればいいのかな?人参の皮のきんぴらも美味しいんだよって。栄養もあるし。……あ、きんぴらを作ろうにも醤油がないか。じゃぁ、油で揚げて塩をふるのがいいかな。人参の皮チップス。




