もちもち
「あはは、皇帝に会うのに失礼な服装だと思う常識はあるとか、お前本当にいろいろアンバランスで面白いな。心配しなくたってどんな人間を聖女に選ぼうと皇帝は文句は言えないから大丈夫だ」
ぐりぐりと頭を乱暴に撫でられる。
「いや、だから、私は聖女というそんな立派な人間じゃ……」
聖女を語る偽物とか言われるような危険も冒したくないよ。
私、こう見えても図書館ではラノベをたくさん借りて読んでた。現実逃避したかったのかもしれない。ファンタジーの世界では家賃の心配も、明日の食べる物の心配もしなくてよかったから。
……実際なんだか、異世界に来たら明日の食べる物どころかその日飲む水すらどうにもならなかったけどね。はは。いや、これからどうしようか。
「侯爵が選んだ女が聖女だ。別に立派である必要なんてないぞ?」
「え?」
ちょっと待って、聖女って、ファンタジー小説だと癒しの力があったり浄化の力があったりとかだよね?この世界では聖女とは違う存在なの?
「俺が選んだんだから、リコは闇侯爵の、俺の聖女」
にぃっと自信満々な笑顔を見せられ、思わずドキリとしてしまう。
イザートに選ばれたの?私が……?なぜ、私を……?
「皇帝選定なんて興味ないから聖女も連れてく気が無いって言ってたくせに」
ふんっと、ビビカが鼻息をイザートにぶつけた。
「気に入った女がいなかっただけだ。見ろよビビカ、この見事なまでの黒目に黒髪。俺にぴったりな聖女だろ」
え?何?私が気に入られたのって、黒目と黒髪だから?って、この世界では少ないのかな?
あはは。そうよね。何のとりえもない、30歳の、しかも山賊みたいな恰好をした私を特別に気に入る理由なんてあるわけないもんね。
「イザートにピッタリなんじゃない。俺様にピッタリな色だよ。リコの黒い目は俺様と同じ黒真珠みたいだ」
「ふふ、ビビカありがとう。でも、黒真珠知らないでしょう?」
「ちょっと待てよリコ、なんでビビカには笑顔見せるのに、俺には見せてくれないわけ?」
へ?
「っと、マジで時間ぎりぎり、ビビカ行くぞ」
ひやぁっ!
イザートがたくましい腕で私の体を持ち上げた。
お姫様抱っこだ!
そして、そのままピョンっと飛び上がるとビビカの背中に飛び乗った。2mはある高さを、私を抱きかかえていとも簡単に。
どんな身体能力?それともこの世界では普通なの?
ぶわりと、小さく折りたたんでいた翼をビビカが開いた。大きな大きな翼だ。
大きく羽ばたくと、ふわりと巨体が浮かぶ。
「え?待って、私、どこへ連れて行かれるの、まだ行くとはちょ、うわ、飛んでる、飛んでっ」
あっという間に、森の木々より高く上がった。そして、飛行機に乗った時よりもすごい勢いで高度を上げていく。
「ほら、特等席、座ってろ」
イザートがビビカの背中のぎざぎざの出っ張りの一つに私を持たれかけさせた。
「え?背中のぎざぎざ……って、え?柔らかい」
ブラックパールみたいな輝きをしている体だから、全身鎧のように固いのかと思ったら、背中のぎざぎざの出っ張りはまるでウォーターベットのようにふにゃんとして柔らかい。
体を包み込むようなこの心地よさ。ビーズクッションよりも、もちっとむちっと柔らかくてあたたかなこれ……。
「あ!肉球!子猫の柔らかない肉球!」
そうだ。肉球だ。うわー、もちもち触り放題、気持ちいい。
思わず全身を預け、モミモミと心地よい触り心地を思いっきり堪能。
「ったく、とろけるような顔しやがって、ビビカのどこがそんなに気に入ったんだ?」
呆れるような声に、ハッと現実に変える。
ひとつ前のぎざぎざの出っ張りに背中を預けて座っているイザートが私の顔を見ていた。
そうだった。肉球感触に癒されてる場合じゃない。
「私、どこへ連れて行かれるの?」
イザートがふいっと空を見上げ、指をさす場所に視線を向ける。
「あそこ、もうすぐ着くぞ。皇選宮……次の皇帝を選ぶ選定会が開かれる場所だ」
巨大な雲のその中央に城が見える。
まさか……あれは。
「天空の城……」
ご覧いただきありがとうございます。
イメージとしては、まだよちよちしている子猫というか、赤ちゃん猫の肉球です。
ぷにょんぽにょんのあの肉球。
引き続きよろしくお願いいたします。
先が気になる、とりあえず読むよ、応援する、まぁ気持ちだ受け取れ、善行する、など、どのようなお気持ちでも構いません。
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