偽りの優しさ?
「リコの髪は綺麗ね」
ああ、これは……まだ、妹が生まれる前の記憶。
「リコはいい子ね。ママの宝物よ」
ママ……。
夢だ。これは夢なんだ……。
「ワシらは助からない」
アイサナ村のおばあさんが出てきた。
ボロボロとミイラのように枯れ果てて砂のように崩れていく。
「助けて……」
次にアイサナ村の少女が同じように干からびて崩れて行った。
そして、妹の姿が。
「お姉ちゃんのせいよ!お父さんが出て行ったのも、お母さんが壊れてしまったのも、私が不幸になったのも、みんなが死んでしまうのも、全部お姉ちゃんのせいだ!」
違う、違う!違うっ!
夢の中の私が、必死に皆から逃げようとしている。
「こし器に残ったカボチャもジャガイモも卵も、まだ食べられるのに!」
「鶏ガラスープを作るときの下ごしらえでこそぎ落とした肉のかけらもゆで汁もまだ食べられるのに!」
村人たちが次々と痩せて倒れていく。
「お姉ちゃんが贅沢をしたせいだ。皆死んでいく。お姉ちゃんが助けなかったから悪いんだ。全部お姉ちゃんのせい」
妹の言葉。
「誰かの命を犠牲にして食べるプリンは美味しい?」
「ああああああっ!」
自分の叫び声で目が覚めた。
はぁ。はぁと、息が上がる。
上半身を起こし、布団を跳ね上げる。
汗だくだ。夢なのに、恐怖でどうにかなりそうな気持が消え去らない。
怖い。怖い。
ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
私の世話をする専任の侍女はいない。侍女たちはそれぞれに苦手な仕事得意な仕事を教えあいながらすべての持ち場の仕事をこなしている。
鏡を見れば、明らかに泣きはらした目をした私の顔が映っている。
こんな時に限って……。今日はミミリアとマチルダが朝の支度の担当らしい。
「おはようございますリコ様」
ミミリアとマチルダは花瓶を倒してメイに嫌がらせをした二人だ。
処罰こそしていないけれどどうしてもわだかまりも残っている。メイ本人は謝ってもらったし丁寧に指導してもらっているからと一緒に働くことをなんとも思っていないようなんだけど。
ミミリアは、私の顔を見ても表情一つ変えない。メイならきっとどうしたんですかリコ様と、声を上げるところだろう。
専属侍女という立場であればどちらが正しい反応なのか。
マチルダが髪をとかしてくれる間に、ミミリアが脇から何かを差し出した。
「リコ様どうぞ」
差し出された物は、濡れタオルだ。
腫れた目元を冷やす用なのだろう。
「ありがとう」
素直にお礼を言って目元に当てる。ひんやりとして気持ちがいい。
かすかに、ラベンダーのような香りがする。心が落ち着く香りだ。
目をつむり、濡れタオルを当てていると、ミミリアの声が届く。
「朝食はいかがいたしましょう。お部屋にお持ちいたしましょうか」
目をふさぎ、耳からの情報だけでミミリアの声を聴くと、私を気遣っている思いが伝わってきた。
理由は尋ねないし、表情も変えないけれど。あんなことがあったけれど、今は私のことを心配してくれているのかな?
そう思うと、髪をとくマチルダの手も温かく優しいものに思えてきた。
「いえ、いつも通りイザートと一緒に食堂で取るわ」
本当のところはどうか分からない。3人を処罰したことで、大人しくししているだけかも。分からないけれど、今は偽りだろうが優しさが温かい。
食堂に顔を出すと、イザートが私の顔を見て声を上げた。




