闇聖女として
突然アイサナ村の人々の姿を思い出す。皆、やせ細っていた。そうだ。貧しい生活をすれば食べる物にも困る。私はそれほど肉付きの良い体系ではないが、日本人として標準的な体系だ。……貧しいのに食べられていたとしたら、男であれば盗賊山賊、女であれば売春身売り……を疑われても仕方がないのか。イザートは、疑って、そして軽蔑するのではなく心配してくれた。
「もし、私が……何か人に言えない過去があったら、イザートは……どうする?」
私は異世界人だ。イザートはそれを知ったらどう思うだろうと。嫌われたくはない。
「人に言えない過去……か。それが、貧しさのためであれば、全部俺のせいだ。俺を責めてくれ……領民が貧しくてやむにやまれぬ行動を取るのは、領主が領地を豊かにできないせいだ。豊かであるのに犯した犯罪は本人のせいだが、貧しさゆえに犯してしまう罪はその土地を治める者の責任だろう?」
ドキリとした。
そして、胸がぎゅっと締め付けられる。
プリンが食べたいとか、和菓子を作ってみようかなとか……。
何してるの、私。ここにいる間は聖女の役割を果たすなんて……。偉そうなこと。
全く分かってない。
イザートは働きすぎっていうくらい仕事してるのは領民のため。
1年、ここで闇聖女という立場でいる限り、わたしは……人の上に立つ立場の人間なのに。
偉そうに、偉そうに……。使用人たちの役に立ってるなんて少しいい気になってたんじゃない?
恥ずかしい。なんて……みっともない。
どうせ、力のない形ばかりの聖女だからって。だからって……。何かしようとすれば私にだってできたんじゃないの?
ああ。ああそうだ。
こし器と蒸し器をギルドに登録して使用料をどうするかと尋ねられて……。
儲けるつもりはないからいらないって答えた私は、何て傲慢なんだろうか。
何をするにだってお金は必要だ。今、私がここで生活させてもらっているのも……。おいしいものを食べさせてもらっているのも。お風呂にはいれるのも……全部お金がかかっている。
お金がいらないなんて、お金に本当に苦労したことがあれば言えるはずがないのに。
不労所得は恥ずかしいというか、本来は私が発明したものじゃないからずるをしているみたいだからだとか……利用料を断る自分に酔ってた。それがカッコいいと思ったわけじゃないけれど、そうする方がいいと少なくとも思ったことは確かだ。
馬鹿だ。
馬鹿だ。
お金は大切だ。何も盗むわけでも騙すわけでもない。利用料だ。素直に受け取ればいい。そのうえで……。
使い方を考えればよかったんだ。
私は、本当に運よくお金を手に入れる手段に容易にたどり着ける環境があった。
それを恥じるんじゃない。感謝して、そして……役に立てるべきなんだ。
イザートが侯爵として裕福に生活できる恩恵を受けている代わりに、領民のために働いているように。
私が、プリンが食べられるような贅沢が許される恩恵を受けるならば……。この世界の、この国の、闇侯爵領の、いいえ、もっと小さな街の、村の……誰かのための幸せを考えて返さないといけない。
使用料はしっかり受け取ろう。そのうえで、使い道を考えよう。




