身売り
「楽しみにしている。ビシソワーズだったか?」
ギラギラの目のイザートに、キラキラの目の料理長が答えた。
「はい。しっかり研究して極上のスープを作り上げて見せます!近いうちに必ずお出しできるように!」
「ち、近いうち?」
「では、早速試作をしてまいりますので!」
料理長が素早くお辞儀をして食堂を出て行く。
「試作の試食なら、私も協力すると、セス、料理長に伝えてくれ!」
イザートがセスに訴えると、セスが無表情に答えた。
「イザート様、残念ながらどの世界にも主人に試食をさせる使用人はいません。私たちを常識無しにするおつもりですか?」
言葉にぐっと言葉に詰まったイザートを見て、セスが勝ち誇ったような顔をした。
「ご安心ください。私たち使用人が、繰り返し試食をしてイザート様に最高のお食事が出せるように全力で料理長に協力をいたしますから」
イザートが泣きそうな顔をする。
セスさん……なんかイザートの反応を楽しんでいませんか?
食事が終わると、イザートは仕事が残っていると執務室へと戻る。いつも仕事ばかりだ。働きすぎなんじゃないかなと、ちょっと心配になる。……料理長は試作品は使用人だから中途半端なものは出せないというけれど、私が作った物ならイザートに出してもいいかな。疲れている時には何がいいだろう。こし器を使う甘い物といえば、和菓子が一番に思い浮かんだ。
そういえば、この世界では洋菓子しか見たことがない。和菓子……材料が揃えば作ってみようかな。でも、餡子とか口にあうかな?
「なぁ、リコは貧しいところで育ったのか?」
「え?」
新しく読む本を借りようとイザートと一緒に歩いていると唐突に話題を振られた。
また山賊ネタなのかとちょっと身構えると、真剣なまなざしが私をとらえた。
「会った時は、腹を空かせて倒れていたし……それに、鶏の骨まで食べるんだろう?」
鶏の骨は……軟骨なら食べるけど……他は食べないし。
「ああ、まさか、鶏がらスープのこと?いや、あれは食べるんじゃなくて出汁というか旨みエキスを取り出すために煮込むというむしろ贅沢な調理法で……。豚骨だとか牛骨だとかを使ったスープも骨をゴリゴリ食べるわけじゃなくて……って、まさか、今まで骨を食べると思っていた?」
どうしよう、そりゃ料理をしない人には分からないのかもしれないけど、笑っちゃ駄目だけど、かわいい。
笑いを押さえてイザートの顔を見ると、イザートが心底ほっとした顔をする。
「そうか……貧しい家だったわけじゃないんだな……。骨までかじらなければいけないくらい貧しいのにリコは痩せているわけじゃないとなると……その、もしかしたら、身売りでも強要されていたのかと……よかった。リコが辛い思いをしていたのではないなら……」
イザートが視線をそらして私の頭をそっと撫でた。
ああ、そういうことか。