こしき
「鍛冶ギルドへの登録や使用料の設定などはどのようにすればよろしいですか」
登録?使用料?そういえばファンタジー小説ではちょこちょことそういうのがあったような気がする。特許料みたいなやつだよね。
「聖女様のお名前で登録させていただき、使用料は売価の1割程度。売価は……少々手の込んだ品ですので、これくらいになるかと」
ゴードンさんが指で数字を示している。うーん、さっぱり分からない。その指1本が10なのか100なのかもわからなければ、金貨だの銀貨だの貨幣についても全く知識がないことに今気が付いた。これは、ここを出てから生活するためには覚えておかなくちゃなぁ。一般的な収入だの物の値段だの。本当、覚えることがいっぱいだ。
「登録は、発案は私ですが形にしたのはゴードンさんですから、ゴードンさんの名前で構いませんよ。ただ、使用料は取らない形にできますか?それではわりに合わないというのであれば、はじめの3年だけ使用料を取りあとはなしとか……。その、なるべく多くの人が気軽に使えるようになるといいなと思うので……」
調理器具だ。
ゴードンさんがびっくりした顔をしている。
「私の名前で?いや、それは……聖女様から言われなければ思いつきもしなかったですし……それでも私の名前を用いてもよいというのであれば、連名で……載せさせていただければ……」
「やったじゃん、親父。道具どころかこれで名前も残るぞ!」
ギール君の方が大喜びだ。
「使用料は、無料にすることは難しいでしょう。聖女様の名前で無料で使わせてしまえば、今後登録する者が使用料を設定しにくくなってしまいます」
ああ、確かにそうなのかも。聖女様はただで使わせてくれるのに、お前は金をとる気か!っていうクレームは容易に想像がつく。
うーん。闇聖女という立場にお金が入るのなら、闇侯爵領の税収が増えるってことかしら?それともリコっていう私個人に?
だとしたら、ここを出てからの生活費の足しになる?いくらくらい入ってくるものなのかな。いくら調理器具と言っても、どちらかといえばプロ用ということになるだろう。価格も手間とか考えたらそう安くできるものじゃないはずだ。高級品なら数は出ないだろうし。
「分かりました。では、使用料などは一般的なものと同じようにお願いします。それから、登録及び販売は、1年後からとお願いできますか?」
「1年後、ですか?それには何か理由が?」
「闇侯爵邸で働く料理人たちだけが知る極上レシピとしてまずは広めたいんです。そうすれば、ここで1年働いていた料理人たちは一目置かれるでしょう?ハズレ侯爵と言われる闇侯爵邸で働いてくださった人達へのせめてもの恩返しです」
成長しましょうと約束したし。その成長が料理人だと腕をあげることのほかに、他の人が知らないレシピを覚えるとか開発するというのがあると思う。
料理長が驚いた顔をしている。
「恩返しだなど……私たちの方こそ、リコ様にとても返せないようなご恩を受けておりますのに……」
いやいや、大げさだよね?
「この1年の間にレシピの研究とかしてくださいね。他の邸の料理人がびっくりする料理を作ってください。そして、そのときはゴードンさんの道具を使ったんだと広まり、ゴードンさんの元に注文が殺到すると思うんです。だから、それまで登録や販売は1年待ってもらっていいですか?」
「それはもちろん。ええもちろんですとも」
「ああでも、他の邸の料理人をびっくりさせるってどうしたらいいのかしら?」
料理大会があるわけでもないし。料理人同士がお互いの料理を食べるなんてある?
皇帝宮に戻ってから初めて知ることになる?いや、料理長が皇帝宮に帰ってどういう立場で働くのか分からないし。そうすると、やっぱり戻る前に驚かせる必要があるんだよね?
「それでしたら、舞踏会を開きましょう」
「舞踏会?」
舞踏会っていうと、シンデレラがお城で王子とダンスを踊ったあれ?
「む、無理無理、ダンスなんて踊れないよっ」
ぷるぷると首を振ると、料理長がハッと何かに気が付いたように頷いた。
「となると、食事会ですかね。親睦会か何か……まずはセスさんに相談してイザート様に提案していただきましょう」
うんうんと、料理長が一人納得している。
えっと、料理長の料理の素晴らしさを広めるには確かに食べてもらうのが一番だよね。
ゴードンさんが帰っていくと、料理長が慌ただしく動き始めた。
「こうしてはいられない。食事会が実現するとなると、リコ様に教えていたいだいた料理の完成度を上げなければ。まずは料理人にこし器の使い方の基本を教えて……」