何も知らない世間知らずな山賊
「き、綺麗?は?ってか、黒真珠って何のことだ?」
「黒い真珠のことよ。天然の貝から取れるものは、黒蝶真珠ね。アコヤ貝から取れるものは黒い物は取れなくて染色をして黒くするの。そちらを黒真珠と呼び黒蝶真珠と呼び分けていることもあるけれど。真珠はパールとも呼ばれる海の宝石で……」
はっと口を閉じる。本で読んで知った知識をペラペラしゃべるところが、頭の良さを鼻にかけていると思われた原因だったのかもしれない。会話が下手すぎて、何を話ていいのか分からず本の中の言葉を借りていたけれど、それが駄目だったのだろう。
「宝石?俺が、宝石みたいで綺麗だって言ったのか?」
聖獣ビビカさんが小さくぷるるんと揺れた。
光を浴びて、黒真珠のような肌がくるるんと美しく光り輝く。
「とってもきれい。お手入れはどうしてるの?磨いてるの?それとも何もしなくてもこんなにつやつや美しく輝いてるの?」
どうしよう。触りたい。けど、聖獣って言ってた。もう怖くはないし、食べられるとも思ってないけど、今度は神々しすぎて近づけない。
「リコ、お前マジか?黒いんだぞ?他の聖獣みたいに青くも赤くもない、黒だぞ?これが、綺麗?」
イザートさんが、聖獣ビビカの頬っぺたあたりをポンポンと叩きながら私の顔を見た。
「は?黒でも綺麗なものは綺麗でしょ?」
自分だって、黒い髪に黒い目してるくせに何を言ってるのだろうか?金髪美女に憧れがあるタイプだろうか?
「それにね、黒真珠はお守りなのよ。魔除けのお守りとして人気があるの。特別な時、冠婚葬祭によく用いられる特別な宝石」
ブルブルブルと、ビビカが震えだした。
「イザート、聞いたか?俺は特別、特別な聖獣なのだっ!」
嬉しそうにに大きなしっぽで地面をバシンバシンと叩いてビビカが声を上げる。
「ああ?リコお前正気か?闇侯爵も知らないし、ビビカを見て綺麗なんて言葉が出てくるなんて……」
えーっと。異世界の人間なのでと説明したほうがいいだろうか。
異世界の人間だと知られると、何か悪いことが起きる可能性が無いともいえないよね。異世界から現れた人間がこの世を破滅するみたいな予言の書があったりして、見つけ次第殺せっていう可能性が無いわけではない。
「あ、は、は、ちょっと、私、世間知らずというか、えーっと、変わってるというか……」
この世界のことをある程度分かるまでは、異世界の人間だって知られない方が無難だろうと、笑ってごまかす。
って、こんなんでごまかせる?むしろ、怪しい。
イザートが、私の顔をじーっと見ている。
「ぶははっ、そりゃ、変わってるよな。そんな山賊みたいな服装してる女なんて初めてみた。女のくせにズボンまではいてるんだもんな。いったいどこでそんな服を手に入れたんだ?あははは」
めっちゃ笑われている。目じりに小さな皺ができ、白い歯を見せて笑うイザートはさわやかだ。イケメンって、笑い顔さえ下品に見えないのか。
「リコを馬鹿にするな。リコはかわいい。服もよく似あってる」
ビビカが笑い続けるイザートに大きな頭をぶつけた。
「うおっ」
……確か、汚い女って、言ってませんでしたかね?というか、この服が似合うと言われるのも微妙なんだけどなぁ。
「いてーぞビビカ。このでか頭め。さっさと皇選宮に連れてけ。遅れて行くと他の侯爵がうるせーからな」
「はぁ?イザートが行きたくないってぎりぎりまで出発しなかったくせに、今度は遅れるの気にする?イザートなんて遅れて行って皇帝から怒られればいいんだよっ」
こ、皇帝に怒られる?皇帝って、偉い人だよね。いや、侯爵も偉いし、聖獣もすごいけど。皇帝って王様みたいな、国で一番偉い人なんじゃ?
っていうか、イザートって冒険者とかじゃないの?闇侯爵って二つ名みたいなやつだと思い込んでた。本当に「侯爵様」なわけ?
怒られるって、不敬だって……牢屋にぶち込め!みたいなレベルの怒られ方なんじゃ……。もう、なんていうか、こんな服装で言っただけで汚い女だ。予の目を汚すとは許せぬ。首を跳ねよ……みたいな。ぞっと背筋に冷たい物がはしる。
「わ、私が皇帝陛下の前になんて、無理ですよね?こんな服装じゃぁ、失礼に当たると……その、やっぱり一緒に行くのは」
私が本気で言ってるのに、イザートはぷっと笑った。