スープも
「失礼しました。お見苦しい姿を……」
ゴードンさんが深く頭を下げた。
「いえ、あの……こちらの依頼は急ぎではありませんので、他の仕事が落ち着いた時にでもしていただければと……言えばよかったですね……」
申し訳ない。こちらこそ配慮が足りなかった。
私は、腐っても聖女だった。自覚が足りないんだ。聖女の行動が他の人にどのように影響するのかということが……。
「いえ、ガガは、仕事を押し付けたと言っていましたが、違うんですよ。ガガもここにいるギールも、もうすでに仕事を任せられるだけの力がある。いい機会だから一人でやってみなさいと任せたのが、押し付けられたととられていたとは……。家族の内輪もめに巻き込んでしまい本当に失礼いたしました」
ゴードンさんはそうは言うけれど。
「無理させてしまったことには変わりがないのでは……?」
申し訳なさでいっぱいだ。
「あははは、いや。親父は、新しい物が作れるって、ウキウキして作ってたから心配しなくていいよ。むしろ、無理してたっていうなら、俺とガガがミスしないかと口を出したいのを我慢するほうが大変そうだった」
ギール君がニカリと笑った。
「ウキウキと?」
「あはは、まぁそうですね。新しい道具を作りだすのは、鍛冶師の腕の見せ所です。歴史に名は残らずとも、道具は歴史に残りますから」
照れくさそうにゴードンさんが頭をかいた。
「また、何は欲しい物があればどんどんお申し付けください。こいつとガガも仕事が早くこなせるようになって来れば、私のすることが無くなってしまいますんで」
その言葉を聞いて、ほっと息を吐きだす。無理させていたわけじゃなくてよかった。
「早速使ってみても? 頼んでいた小さな物はもちろん、こちらの目の大きなものは別のことに使えるので助かります」
作った道具の使い方を教えてあげるには実演したほうがいいかと尋ねると、すぐに笑顔が返ってきた。
「ええ、もちろん、使ってもらって、使いやすいように直せるところはすぐに直しますんで」
ゴードンさんが足元に置いた鞄をポンと叩いた。
どうやら簡単な直しはすぐにできるように道具まで持ってきてくれているらしい。なんか、そごくゴードンさん優秀な鍛冶屋さんなんじゃない?
それともこれがこの世界では普通なのかな?
料理長に持ってきてもらったものを洗ってもらって、いくつかの食材を用意してもらう。
調理場で作業したほうがいいのかな?とも思ったけれど、簡単な作業だからここでも問題ないかと。
まずは目の粗いものから。
「これの使い方の一つは、こうします」
固くなったパンを、目の粗いこし器に押し当てガリガリとパンを削ってパン粉を作っていく。
「あー、これを、何に使うんですか?牛乳にでも浸して赤ちゃんにでも食べさせるつもりですか?」
ああ、なるほど。そういう発想もあるか。
「これは、パン粉です。乾燥パン粉と生パン粉の間くらいかな?後でエビフライかなにか作ってもらいます。レシピはあとで教えますね。それからもう一つ、これをもともと作ってもらいたかったんですよ。こし器……食材を裏ごしして、滑らかにするために使います」
この世界には裏ごし文化もなかった。料理の味は悪くないけれど、細かい部分で荒さがある。普段の料理ならば全然気にはならない。けれど、宮廷料理のレベルまでの料理を身に着けるのであれば、繊細さも必要だろう。
というか、私の中ではダマが残っていない滑らかな口触りのプリンのことしか頭にないんだけどね!蒸し器とこし器。ふふふ。完璧プリンに向けてあともう一息!
料理長が持ってきてくれたゆでたカボチャを裏ごしする。
「こ、これはいったい……。すりつぶすのとは違うのですか?」
料理長が興味深々だ。
裏ごしの済んだカボチャをスプーンですくって料理長に渡す。
「こ、これは……なんと滑らかな……。すりつぶしたのではここまで雑味感が無くなることはない」
ついでに、持ってきてもらったコンソメスープを目が中間くらいのものを使って、こす。そこに裏ごしカボチャと牛乳を入れて混ぜ混ぜ。
「はい、カボチャの冷製スープの出来上がりです」
ゴードンさんが不思議そうにスープに視線を向けた。
「黄色いなぁ。全くカボチャが見えないが、カボチャのスープか」
料理長の前、そしてゴードンさんたちにも器にすくってスープを差し出した。
「試食をどうぞ」
まずは料理長がスプーンですくって、器に垂らしたりして状態を確認している。色や匂いなど、いろいろチェックしているようだ。




