褒める
「本当、イザート様は何を見ていらっしゃるのか!こんなに美しい髪と肌を持っているのに山賊だなんて!」
「失礼ですよね!リコ様のように博識でお優しい方のどこが山賊なんですかっ!」
ありゃ。なんだか知らないけれど、メイとマーサがイザートのことをぷりぷり怒り出した。
「屋敷の主人のことをそんな風に……」
言って大丈夫かと思ったら、二人が濃い化粧の顔を私に向けて、息ぴったりに声を上げた。
「「私が仕えているご主人様は、リコ様ですっ!」」
あ、はい、そうですか。
部屋を出ると、他のおてもやん侍女が待ち構えていた。
「眉の描き方が素敵ね。額の影の付け方が自然でうまいわ。鼻筋の入れ方はもう少しこうしたほうが、でもハイライトの入れ方は秀逸。目の切れ長な感じが美しいわね。目頭にも注意を払うともっとよくなるかも?」
など、会う侍女会う侍女に声をかけていたら、私の胸の中におさまっているビビカが爆弾発言をした。
「皆、超変な顔してるのに、なんでリコは褒めているんだ?」
へ、変な顔……。
それを聞いた侍女たちの表情がぴきりと固まる。
「今は練習中なのよ。だからね上手にできているところともう少し練習したほうがいいところが分かったほうがいいでしょう?きっと、1か月もすれば、とてもみんなメイクが上手になっているはずだわ。だって、本当に皆熱心で向上心があって素場しい侍女たちだもの!」
おだてるわけでもなく本心でそう言えば、侍女の一人が涙を流して後ろを向いてしまった。
金髪の侍女だ。花瓶をわざと倒した1人。
嫌味に聞こえちゃったかな。そうじゃないんだけどな。あれからは、ちゃんと食事の給仕の仕方を他の侍女にきっちり指導してくれているし、部屋の整え方にも詳しいみたいでいろいろとチェックを入れては指導しているようだ。……つまり、優秀な仕事ができる侍女だったわけよね。
土侯爵邸に派遣されてちょっと目標を失ってしまったのかもしれない。それが1年後の成長という新しい目標を持ってやりがいを取り戻してくれたならいいんだけど。目標がないと、生きていくのって結構辛いこともある。
私も。母のため妹のためと依存しながら生きてたところがある。いざ、もう妹や母の面倒を見なくてもいい状況になっても、じゃぁ、私はこれから何のために生きて行けばいいのかと不安しかなかった。
自分のために生きればいいと分かっていても、まずはおしゃれしてみようとして服を買っても山賊スタイルになっちゃうし、心が浮き立つこともなくて。
……今の私は、とりあえず1年は闇聖女として皆と成長するために暮らすんだけど。1年後はどうしたらいいんだろう。
「ねぇ、ビビカ、精霊王様って、他の精霊たちよりすごい力があるの?」




