水侯爵
「大変だったであろう。すぐに救ってやるから、安心なさい」
ハーレー様が両手を広げ、にこりと涼し気な顔に笑顔を浮かべると村人たちから歓声が上がる。
「水侯爵様!水聖女様!ありがとうございます!」
沸き上がる村人たち。中には助かった、これでもう大丈夫だと涙を流している人たちもいる。
乾ききった大地。
作物のほとんどが茶色く変色して枯れている。
ほんの少しだけ、背の低い作物が緑色を保っているものの。いくら土地に水が戻っても、1からまた何かを植えて育てなければならないのだろう。大変そうだ。
「あれ?」
村人たちが水侯爵様の前に全員集まっているかと思ったらそうではないようだ。
少し離れた場所で、1人のおばあさんが暗い顔をして座り込んでいる。
「おばあさん、大丈夫ですか?気分でも悪いのですか?」
熱中症とか、何か病気だと大変だと思って近寄って声をかける。
腰の部分を紐で縛った裾の汚れたワンピースを着ている。女の子もそうだったけれど、この村の男性も女性も着古した服を着た者ばかりだ。貧しい村なのかもしれない。
「ああ、気分は最悪だ……。村は救われない……」
え?
「大丈夫ですよ、あの、闇侯爵と違って、水侯爵様たちなら精霊の加護があって、水魔法で乾いた大地を潤してくださいます。……と、過去の記録にありましたよ」
もしかして、ビビカを見て絶望しているのかと、慌てて安心させるように声をかける。
いや、まさか、自分たちは役立たずだけど水侯爵はすごいと敵に塩を送るようなことを言うことになるなんてね。
「そうじゃ。過去と同じように、また、救われない……」
え?
何を言っているの?過去の記録では、日照りの村は水侯爵は雨を、風侯爵は雨雲を運び、木侯爵は作物を成長させ救ってきたんだよね。
闇、光、土は苦手なジャンルだけれど、水侯爵の得意な分野だ。
どういうことだろうとおばあさんに尋ねようと口を開きかけたところに高い声が耳に届いた。
「何しにいらっしゃたのかしら?」
振り返ると、水聖女エンジュナ様の姿があった。
ふわふわの水色の髪に、この間会った時よりも華やかなメイクを施している。
「闇聖女様が、日照りをどうにかできますの?」
ふんっと馬鹿にしたように鼻を鳴らすエンジュナ様。
「何もできない癖に、わざわざやってくるなんて、恥を上塗りするようなものじゃありません?それとも、努力だけはしてる感でも出すつもり?」
「いえ、あのそんなつもりはなくて」
正直に魔法を使うところを見に来たと言おうかと思ったけれど、なんだかやけに敵視されているような気がして。
見せものじゃありませんわ!と怒らせそうだ。いや、見たかったら見せて差し上げてもよろしくてよと言われるパターンだろうか。
「私たちよりも先に村に来て、村人たちに私たちの悪口でも吹き込むつもりでいたのかしら?」
「そっ、そんなことはしませんっ」
はっと、馬鹿にしたように息を吐きだしエンジュナ様がおばあさんを見た。




