読書
それから知っていることをどんどんと伝えていく。
アイメイクについては伝えることが多くて大変だった。眉毛と違って実践したことがないからうまくメイクする自信もなく、ほぼ口頭。あとは想像力で補ってほしい。Tゾーンのことやらシャドウの入れ方で面長な顔を丸顔に見せる方法、それから頬紅、最近の日本の流行までついでに伝える。
「す、す、すごいです。リコ様……」
「私、メイクが得意と言ったことが恥ずかしくなるくらい……」
たっぷる2時間ほどしゃべり続けた。疲れた。
でも、私以上に、侍女たちは終始興奮気味だったためかぐったりしている。
「さて、テクニックの組み合わせで幾通りものメイクができます。メイク道具は好きに使って構いません。手の空いている時間に2人一組となり、お互いの顔をより美しく見せるメイクを研究してください。どのようなタイプの顔でも同じようなメイクばかりしていては一流とは言えません。ここにいる8人だけでも、幼く見える顔、大人っぽく見える顔、丸い顔、三角の顔、一重、二重……いろいろなタイプがありますね。もしもっといろいろなタイプの顔で練習がしたいということでしたら、下働きの女性にも時間を取ってもらうようにします。では、仕事に戻ってください。特に予定が無ければ、このまま練習していただいても構いませんよ」
……誰も、部屋を出て行かず、ペアを作り始めた。
まぁ、そうね。忘れないうちに実践してもらった方が教えた買いがあると言うもの。
……でも、皆そんなに暇なの?
読みかけだった本を手に取り読む。
今呼んでいるのは、水侯爵に関する伝記だ。それぞれの侯爵の伝記が揃っていたから順に読んでいるのだけれど、3つ目の水侯爵の伝記を読んで思ったことは。
どれも似たような話。かなり盛ってるでしょう?日本書紀と同じ香りがプンプンする。
神話や伝承の類よね。こういうことして精霊の加護を受けることになって侯爵として地を治め……って、まぁ、事実精霊の加護を受けているのだから、完全に作り話ではないんでしょうけど。100%作り話だったら、精霊も怒るよね?きっと……。
でもって、どれほど水侯爵は人々を救ってきたのか。敬うべき存在なのかと終始その意図が見え見えの本でございまして。
「あー、おもしろかった」
ぱたんと最終ページまで読んで本を閉じる。
作り話半分だと思って読めば十分物語として面白いんだよね。どうやら、始めに読んだのは今の皇帝を輩出している光侯爵の本。
光って、光魔法系じゃなくて、癒し魔法系。癒し魔法というと、手の平を患者に向けてかざし、魔法を発動すると光って患者の怪我や病気が治るイメージよね。それだとあまりたくさんの人が助かれない気がするなぁと思ったら、イメージ通りの癒しも行うけれど、遠方にいる者や、多くのものを癒す場合は、人を直接癒すんじゃなくて薬を作るんですって。薬というかポーション?薬草から作られた丸薬や液体に癒し魔法を
施せば、あーら不思議。薬草以上のすごい効果を持つ薬ができるんですって。まさにポーション。ただし、やっぱり精霊の加護があっても無限にというわけにはいかないから、世界中の人たちをいつでもどこでも何度でも癒せるだけの薬は作れないらしい。そりゃそうよね。老衰以外不死の世界とか想像できないし、食料問題とか医療以外の問題が出てきて、なんか国があれそうで怖い。
次に読んだのが闇侯爵の歴史。これは伝記ではなく闇侯爵領の記録かな。いついつにこんな災害が起きただの。そのとき皇帝に命じられた木侯爵がなにそれして助けてくれただの……。世界的規模で災害が多発しているときは、助けが来るのはいつも後回し。そりゃ他の侯爵たちは精霊の加護で助け合うけれど、精霊の加護がない闇侯爵はいつも助けられる側だから仕方がないんだろうなと思ったけれど。よく読み進めれば、そういうことの繰り返しだから、助けがくるまでに食料だけはしっかり備蓄しているらしい。その備蓄食料を何度となく別の侯爵領で被害があったときに支援しているとか。なによ。全然助けられるばっかりじゃないじゃない。むしろ、一番大事なところを助けてるじゃない?それなのに、こんな扱いされてるの?
不思議なことに、異世界転移転生系って、なぜか「本を読んで知識を得る」方向に行くよね。
これって、「小説を読んでいる人間」の発想なんだろうなぁとは思う。
「文字が読めること」と「読むことが苦痛じゃないこと」はイコールじゃなくて、本を読むことが死ぬほど嫌い!って人も「本を読んでると頭が痛くなる」って人も、そうじゃなくても「読書より動画」「漫画なら読むけど」みたいな人の方が圧倒的に多いわけで……。
主人公はやや活字中毒という設定なので、問題ないですけどね。
いえね、ちょっと前にTwitterで見たんですよ。
最近の若者は本を読まない。漫画すらタイパ(タイムパフォーマンス)が悪いと感じるんだって。
動画なら5分もあれば見終わるけど漫画は……って。
それに対する反応で「え?漫画のほうがタイパよくないか?」って書いてあってさらには「読むのがめちゃ時間がかかる人間からすれば云々」って続いてて
……そういえば、異世界転生転移主人公本を読んで知識を得ようとしがちだけど、人に聞いた方が早いよな圧倒的に……きけない話ならまだしも……と、思いました。読むことが好きな人が書いてて読むのが好きな人が読んでるからあんまり違和感ないんだろうね……と。
でもこういう話聞くと……。
読みやすさを追求した書き方があるんだろうなぁと……ちょっと考えちゃいました。あー。




