ダメ出し
「私が聖女であるように、あなたは執事でしょう、あなた方は侍女でしょう他の人も、それぞれの立場が役割があるはずです。役割を放棄したい人は放棄すればいい。1年後、皇帝宮に戻ったときに役割を放棄した人間がどのような扱いを受けるのかはまでは私は知りません」
ぐっと、悔しそうに唇をかみしめる侍女たち。
「ですが、私は一つ知っています。優秀な者は、出世することができると。大聖女付きの侍女、皇帝宮筆頭執事、料理長……馬蹄長……そのほかいろいろと出世の道はあるのでしょう。ビビカに報告してもらうということは、評価を下す私やイザートも嘘もつけない。個人的な感情で評価をゆがめることもできない」
ごくりと、一部の使用人たちが唾を飲み込む音が聞こえた。
「私は、皆が1年後皇帝宮に戻ったときに、優秀だから出世させてほしいと報告ができるように聖女として全力で世話をされるつもりです。それが能力のない闇聖女として私ができる唯一のことです。時には、皆さんの成長を期待して厳しいことも言うでしょう。それを理不尽に感じることもあるかもしれません。私自身に間違いがあることもあるでしょう。ですが、それも含めて聖獣ビビカは記憶します」
私も勝手なことはできないんだよと。度が過ぎた我儘はできないんだよと伝える。
「はっ、ははははははっ。笑っちゃうわ、笑っちゃう!」
侍女の1人、私の髪をひっつかんでお湯に顔を押し込んだ赤毛の女が醜く顔をゆがませて笑い始めた。
「バカバカしい。何が優秀だから出世させてほしいよ!闇聖女の言葉なんて聞いてもらえるとでも思ってんの?聖女に選ばれたからって調子に乗るんじゃないわよ!」
赤毛の女の隣にいた金髪の女性が腰に手を当てた。
「そうよ。皆騙されないで。単に自分の都合のよいように仕えさせようとしているだけだわ。私たち、顎でこき使われておしまいよ。誠心誠意努めてても、所詮は闇侯爵邸に派遣された者だと蔑まされるだけだわ。優秀だと報告してもらったって、私たちに未来なんてないんだから!さっさと皇帝宮をやめた後のことを考えたほうが得策よ!こんなバカげた聖女の元で1年我慢することなんかないわっ!」
そうよそうよと賛同するつぶやきも聞こえる。
「向上心のない者は、辞めればいい。どうせ、いても成長しないのだから、優秀だと私が報告することもないでしょうから」
わざと声にどすを聞かせる。
「や、辞めてやるわよっ!だけど、こんなに早く侍女が辞めれば、闇聖女はロクな奴じゃないって噂されて、他の人間は派遣されるのを嫌がってこないわよっ!」
「私の部屋に花を置いた侍女は誰?」
赤毛の侍女の言葉を無視して大声を張り上げる。
侍女からは手が上がらない。
「ビビカに聞けばすぐに分かることだわ。素直に手を上げてくださらない?」
泣きそうな顔をした侍女の中でも年かさの茶色の髪の女性が手を上げた。30代半ばだろうか。私よりも年上そうなのは彼女だけだ。
「なぜ、花を置いたの?」
「は、はい。あの……聖女様のお部屋が少しでも華やかになればと……か、香りも楽しめる花をその」
「そう。屋敷に来る私のために、花を部屋に置いてくださったのね。見た目と香りと両方楽しめるようにと。素敵な心掛けだわ」
素敵と言われて褒められると思ったのか、うつむきがちだった茶色の髪の侍女が顔を少し上げた。
「だめね。まったくだめ。優秀からはほど遠いわね」
私の言葉に、ざわっとざわめきがおこった。
「おい、リコ」
イザートも驚いたようで私の腕に触れた。
ご覧いただきありがとうございます。
ぷちざまぁするよ。
リコさん、何が駄目だっていうの?
おもてなしの心は、難しい。




