年齢のこと
「見事に、一度も闇侯爵の活躍が書かれてない」
そりゃ、雨を降らせたり雲を呼び寄せたり、人々を癒したりとか……精霊の加護があるすごいことができる人た相手じゃねぇ……。
皇帝には成れないと、思われるよね。というか、成れないでしょう。国のためにどれだけの働きができるかということで選ばれるなら、この先もずっと、成れそうもないよね。それこそ、侯爵どうしがめっちゃ仲悪くて喧嘩しちゃって、それを上手に収める能力が買われてみたいな特殊なことが起きらない限り……。
いつの間にか争いをやめ、イザートは書類に目を通していた。
「もう読んだのか?」
本を返そうと立ち上がると、イザートが顔をあげる。
「ええ。読むのは早い方だと思う。他の本も読んでいい?」
「ああ、好きに読んでくれ」
ビビトはどこへ行ったのだろうと顔を動かすと、ソファの上に丸くなって眠っていた。
くっ。なんたる、かわいい姿で寝ているのだろう。撫でたい、寝ている間になら撫でてもいいかな?いやでも聖獣だし、失礼に当たっては……。
ぐっと我慢。聖獣に関する本を読んで、勉強してからよ。ほら、猫だって、犬だって、ちゃんと飼い方を勉強してから飼わないといけないのは常識だもん。突然手を伸ばして撫でては駄目とか、ちょっとした行動にもNGがあったりするんだから。犬猫扱いしたら怒られるよね。聖獣なら、神社にお参りする作法みたいなそういうのかな。ん?でも精霊の加護がないのに聖獣はいるの?聖獣は精霊と関係ないのだろうか?知らないことだらけ。
本を棚に戻して、背表紙に書かれたタイトルを順に見ていく。
気になるタイトルの本がいくつかあったけれど手に取らずにすべての背表紙のタイトルを見ることにした。
もしかしたら、異世界のことについて書いてる本があるかもしれない。
並んでいるのは革張りの表紙の立派な本だ。大きな天井までの本棚が壁一面に並んではいるけれど、日本の図書館に比べたら大した量の本はない。すぐにタイトルを見終わる。
「ここには他に本は無いの?」
「あ?書庫があるが、あまり役に立たない古い本や誰それの日記とかろくなものは並んでないと思うが。あー、恋愛小説の類が読みたいなら取り寄せるぞ?2~3日もあれば届くはずだ。侍女にきけば流行りの小説も教えてくれるだろう」
恋愛小説ねぇ。
「あーっと、それはいいわ。とりあえず、ここにある本を読むから」
イザークが私の顔をまっすぐ見る。
まじめな表情をするイザークは、イケメン度が3割マシだ。彫の深い瞳が私の姿を映している。
「ってか、汚れが落ちて顔が見えると、思ってたよりずいぶん若いな」
はい?
「成人はしてるよな?」
この国の成人は何歳なんだろう。
「私、30歳です」
わかんないので、年齢言っておこう。
「あー、なるほど。もしかして、皇帝宮で何年か働いてたのか?あそこは時が止まるからなぁ。年を取らない」
え?
年を取らない?皇帝宮って、不思議空間なの?精霊王の加護があるとかそういうことで?だとすると精霊王は時の精霊みたいな能力を持ってるとか?……って、ファンタジー小説に影響受け過ぎかな。
「だったら、貴族みたいな食べ方をしたり、文字が読めるのも分かるな。世間の常識に疎いのも、まぁ、隔離された世界だから誰も教えてくれなきゃ知らないままだもんなぁ。実年齢は30歳でも、10年は皇帝宮で働いてたんじゃないのか?見た目は10年時が止まっていたんだろう」
いや、ちょっとまって、20歳に見えるって話をしてますか?それ、単に日本人顔は幼く見えるが発動しているのではないでしょうか。
そんな特殊な事情はないんですけど……しいて言えば、日焼けにだけは気を付けていたので肌の老化はこの世界の人よりはしていないだけの……時が動き続けた30歳、三十路ですけど。
またやっちまいましたぜぇい、ボス!日本人は若く見えるを発動した。