年を取らない場所
ピアノの才能があるからと、小さなころからピアノに打ち込み、いろいろなことを我慢して生活をしていた。球技も突き指をしないようにとボールに触らないようにしていた。調理実習も指を切ったりやけどをしたりするといけないからと皿洗いや盛り付けだけ。
ピアノのために。努力していた。頑張っていた。我慢していた。才能は無いと。これ以上上には行けないという現実を突き付けられた時の妹はどんな気持ちだったのか。きっと、大聖女付きになろうと努力してきた侍女たちは、皇帝になる可能性がない、大聖女になる可能性のないという闇侯爵邸に派遣が決まったときにはあの時の妹のような絶望を味わったに違いない。胸がぐっと痛んだ。
「でも、違うと気が付いたのです。取り返しのつかないようなミスを冒した私たちにも、挽回の機会を下さったり、1人ずつ得意なこと不得意なことを知って下さったり……人として、侍女として成長を見守ってくださる……。すぐに替えがきく侍女の一人ではなく、私が……マチルダがいてくれてよかったと言ってくださいます。大聖女の侍女なんてすごいと、不特定多数の賞賛の声よりも、私自身が必要とされることが私にとっては喜びが深いと気が付いたのです」
妹も……そうなのかもしれない。結婚……つまり、夫となった人に必要とされたから。だから、絶望の淵から立ち直ることができたのかも。私だって母や妹が私を必要としていると思ったからあの生活に耐えられたんだ。誰でもいい、社会の歯車の一つではない瞬間だと思えた。私は必要な人間なんだって。なぜ、そんな家族の面倒を見ているのだと。きっとそれが答えだったんだ。私は誰かに必要とされたかった。
今だって、誰かに必要とされたくて、自分ができることを必死に探している。
「あははは、そうか、うん」
エドがマチルダの言葉を聞いて笑い出した。
「君も、新しい自分になろうと成長しているところなんだね。リコはすごいね。どんどん人を変えていくんだ」
「違うよ、私に人を変える力なんてないよ。みんなね、自分で変わろうとしないと変われない。だから、エドもマチルダも、そして私も……変わろうとしてるのってすごいことなんだよ。きっとね。私たち3人ともすごい!ね?」
エドが大きく息を吐きだした。
「ああ、やばい。リコのこと、ますます好きになっちゃった。1年か、長いなぁ。うーん。でもたった1年にすることだってできるんだよなぁ」
だから、エドの言葉にはドキッとするから。男女のそれじゃないって分かってるけど。
「皇帝宮では年を取らないんだから。……よし、本気で皇帝宮を目指すか」
え?皇帝宮を目指す?
どういう意味だろう。皇帝宮のことはまだあまり知らないけれど、皇帝の補佐役とか宰相みたいな立場の人とかそういうの?皇帝宮に屋敷を構える貴族もいるってことかな?エドが本当に私のことを侍女として雇ってくれる気があるなら、私もそこへ行くの?
え?年を取らなくなるの?
……30歳のまま10年とか20年とか生きるの?
不老不死?夢のよう?別に望みはしないけれど……。でも、結婚して子供が欲しい。この世界に慣れてからなんて言ってたらあっという間に35歳とか40歳になっちゃうことを考えると、この世界になれる間、皇帝宮に5年くらいいられるといいかもしれない。




