奇跡の?
「じゃぁ、マチルダ、早速掘りましょう」
「は、はい」
エドがいつものように近くに腰かける。
「侍女に手伝わせるの?リコはそういうタイプじゃないと思ってたんだけどな……」
エドの声のトーンが低い。そういうタイプ?
「エドワード様、発言をお許しください。私が、手伝いたいと志願したのです。リコ様は決して理不尽を私どもに強いたりいたしません」
マチルダがエドにきっぱりと言い放った。
ああ、そういうタイプってもしかして、我儘で侍女を振り回すようなって言うこと?うーん、微妙だよね。井戸を掘るのは我儘といえば我儘で。苦笑いするしかない。
「なんだ、リコは侍女に慕われてるんだね」
「侍女だけではありません。闇侯爵様にも執事にも料理長にも庭師にも、闇侯爵邸すべての者にリコ様は愛されています」
え?
「それ、本当?……マチルダ……も?皆、私のこと……」
愛されてるの?私が?皆に?
どうしよう。思いがけない嬉しい言葉に、涙がこぼれそうになる。
「闇侯爵はリコのことが好きなのか?リコはそういう関係じゃないって言ってたけど」
エドの言葉に出かかった涙が引っ込んだ。
「マ、マチルダが言っているのは、そういう好きとかじゃないから、エド!誤解しないで!」
慌てて否定すると、エドはマチルダの顔を見た。
マチルダがエドに小さく頷き返している。
「な、る、ほ、どね」
今の二人のやり取りは何?なるほどって何?
「ねぇ、リコ、歌は得意?」
歌?
「得意でも苦手でもない?」
カラオケには高校のときに1度、社会人になってから2度の3度だけ行ったことがある。妹のように小さなころから音楽に触れてきたわけではないけれど、妹の奏でるピアノを聞いて育ってきたのでまるっきり苦手というわけでもない……と、思う。
「十分。聖女の素質ある」
「エドワード様、まさか……。リコ様はすでに闇聖女なのですから!歌が下手くそでも十分聖女ですっ!」
二人の会話を聞きながら、穴掘り。
「形だけの聖女だろ?だいたい聖女は交代してはいけないなんてルールはなかったはずだけど?リコは、どうなの?いつまでも闇聖女で居たい?」
いつまでも闇聖女で居たいかって?
「1年は闇聖女として選定会に臨むつもりだけれど……そのあとのことは考えてない。マチルダは皇帝宮に戻るのよね?私はどうなるのかなぁ。行く先が見つかるといいんだけど……」
闇聖女を1年務めても給料が出るわけじゃないよね?となると、1年後は仕事もない、住むところもない、お金もない状態でしょう。住み込みの仕事が見つかるといい。少しの間ならイザートも置いてくれるかな。セスは執事として人事にも関わるならば、どこかつてで侍女として働かせてもらえるといいな。
「僕のところに来て」
エドの手が私にまっすぐにのばされた。
「1年と言わず、すぐにだっておいで」
エドがさわやかな笑顔を浮かべている。カッコいい男の人に手を差し出されたら、夢みたいでドキッとしちゃう。
全然そんな色っぽい話じゃないと分かっていても。
「大切にするよ、リコ……僕の手に触れられる奇跡の乙女」
はい?




