マチルダの変化
「ふ、は、こ、これは……シンプルでありながら、芋の甘さを塩が引き立て、バターの風味がジャガイモを包み込んで……これだけで本当にご馳走……」
料理長が大絶賛すると、料理人たちも待ってましたとばかりにじゃがバターを口に運んだ。
「蒸す……でしたか。リコ様、茹でた芋と甘味が違うように感じます」
「じゃがいもだけで食べるなど初めてのことですが、これならばいくつでも食べられそうです」
「ゴードンさんに蒸し器を注文しよう」
「僕も、蒸し器が欲しくなった」
料理長が蒸し器を見る。
「穴の開いた鍋……蒸し器」
なんだか、じゃがバターをきっかけに、蒸し器の株まで上がっている。うん、ゴードンさん、売れそうですよ。登録とかもう終わってるのかな?注文が殺到すると忙しくなる?
「個人で料理するなら、1段目と2段目に別の食材を入れて蒸してもいいわよ?蒸し鶏と蒸し野菜とかねあまり匂い移りや味移りするものを同時にというのは難しいかもしれないけれど……」
私も蒸し料理にはあまり詳しくはない。温泉地で、熱泉があるような地域では、温泉の湯気共同蒸場みたいなのがあるところも日本にはある。そういう地域の人ならもっと蒸し料理に詳しいんだろうけれど……。
「いろいろなものを蒸して試してみるといいと思うわ」
料理長ならば、研究熱心だからいろいろと実際に試して見つけるだろう。
「今日はね、これをアイサナ村の人に食べてもらおうと思うの。蒸しあがった熱々のじゃがいもに、バターがとろーりと溶けて……。これは作って持って行ったのではおいしさ半減でしょう?」
「なるほど、そうでしたか」
「そう!だから、今日は材料とこの蒸し器を持って行くだけで大丈夫なの」
洗い終わった蒸し器を持ち上げると、料理長がああと小さく声を上げた。
ん?早速、いろいろ蒸そうと思っていたってところかな……。いや、本当に研究熱心だよね。
朝食を終えて、ズボンとシャツに着替えて屋敷を出ると、マチルダが立っていた。
「あー、マチルダ、どうしたの、その格好?」
いつもの侍女服ではなく、庭師のトムさんのような服装で……。つまりは、私と同じようにズボンとシャツ姿だ。
「リコ様、お供させてください」
「え?」
お供?
「リコ様の手足となり働きたいのです。手伝わせてください!」
えっと……。
「井戸掘りだよ?汚れるし力仕事だし……」
「はい、分かっております」
「侍女の、仕事じゃないよ?」
マチルダがぎゅっと両手を胸の前で握りしめて、前のめりで口を開く。
「いいえ。いいえ、お仕えする方が不自由なく生活するのを手伝うのが侍女の仕事でございます。リコ様に仕える私が、リコ様の手伝いをすることは侍女の仕事です」
屁理屈なのか、ちゃんと理屈が通っているのか……。
「私の手伝いはいいから、侍女としての腕を磨くために時間を使えばいいのよ?」
お香の種類や効能、お茶の美味しい入れ方、マッサージに、髪結い……一つずつ丁寧に学べばキリがない。お互いが得意な領域を侍女たちは教えあい学ぶ時間にこの1年を使ってほしい。
「はい。ですから、侍女としての腕……どのようなことであろうと、お仕えする方が不便なく過ごせるように先回りして気を使い、お手伝いする訓練をさせてください」
まぁ、確かに、主人が何を望んでいるのか察して準備したりというのも侍女の一つの大切な能力なのだろう。その訓練がしたいと言うのなら……。
でも。




