優秀な侍女
「あなたにだけ特別よ。実はね、私には妹がいるの。芽衣……あなたと同じメイという名前なのよ」
メイが驚いたように私の顔を見た。
目をくりっくりにする表情。感情豊かで思ったことがすぐに顔に出る妹の芽衣みたい。
偶然名前が同じだっただけ。でも、私は勝手に親しみを覚えている。だから、私がしてあげたいことをするだけ。
「メイは、どうして皇帝宮で働こうと思ったの?闇侯爵邸に派遣されて嫌じゃない?ここで何がしたいの?私の世話はしたくないでしょう?」
メイはぷるぷると頭を横に振った。
「私、皇帝様の大聖女様にお仕えしたくて皇帝宮で働けるように一生懸命勉強したんです。でも、若くて経験も浅いので大聖女様にお仕えすることができなくて。だ、だから、将来の大聖女様になるかもしれない聖女様のお世話ができたら、私、幸せですっ」
おや?
「えーっと、闇侯爵は皇帝になる気はないから、私もその、大聖女とやらになることはないと思うけれど?」
「そ、それは……」
メイが俯いてしまった。
「お姉ちゃんが言っていたんですっ!どの侯爵様にも平等にチャンスがあると。だから、えっと、侍女もそれぞれお仕えする侯爵様が皇帝になれるように懸命にお仕えするんだよって」
「お姉ちゃん?」
「あ、はい。お姉ちゃん……7つ上の姉が、皇帝宮で大聖女様にお仕えしております」
7つ上の姉。
7つ上。
ああ、もうだめだ。私と妹と同じ、7つの年の差なんて聞いてしまったら。メイのために何かしてあげたいとか思っちゃう。
ううう、私、誰かのために何かするのが好きなんだと思う。妹や母を置いて家を出たほうがいいよなんて言われたこともあった。
けど、母や妹に対して愛情があったからというのもあるけれど、基本的に世話焼きなんだよね。私。むしろ自分の好きなことをすればいいって言われても何をしたらいいのか分からなくなる。もし子供ができたら子離れできない厄介なタイプなんじゃないかってぞっとしたこともある。
「えーっと、闇侯爵が皇帝にならなくて、私も大聖女になれなくても、メイが大聖女にお仕えする道はあるの?」
「はい。もちろん、経験を積み、侍女として優秀だと認められれば……」
侍女として優秀?昇格試験みたいなのがあるのかな?
「優秀な侍女ってどんな侍女?」
「あ、はい。お仕えする方の先をよみ、言われる前に準備を整えられるだとか、美味しいお茶を入れられる、美しく髪を結い化粧を施すことができる、正しい情報を入手してお伝えできる、お手紙や贈り物の手配を頼まれたときにセンスの良い物を選ぶことができる、それから……」
なるほど。どうやら、昇格試験というよりは、実施で能力を見せるという感じなのかな。
美しい髪結いをしているご令嬢を見て、あそこの侍女は髪結いの腕がいいみたいだと引き抜きみたいなのもあるのかな。
専属ではなくても誰かが休んだ時に臨時でついて、そのときに能力を発揮して引き上げられるとかなのかな。
どちらにしても。1年間、闇侯爵邸で侍女を経験して、能力を発揮すれば大聖女の侍女になれる可能性もあるってことよね。
逆に、ここでまともに働かなければ、皇帝宮に戻ってクビなんてこともあるんじゃないのかしらね?……あの3人、メイに仕事押し付けてどっか行ってしまったけれど、大丈夫なのかしら?仕事っぷりを誰か監視してるとかないの?
侍女は必要ないと思っているけれど。侍女として私のお世話をすることでメイの評価が上がるなら……。
「メイ、私はいろいろと知らないことばかりだから、よろしくお願いね」
「は、はいっ!頑張ります!精一杯お仕えさせていただきます。あ、リコ様、こちらがリコ様に滞在してもらうお部屋になります。気に入らなければ別の部屋をご用意させていただきますので」
と、メイがさっと扉の前に移動してドアを開いた。
「ありがとう」
と、部屋に入ろうとして足が止まる。
花瓶が床に落ちて粉々に割れ、絨毯が水浸しになっている。美しく咲いていただろう花たちの花びらが散り、見るも無残な様子だ。
カーテンが揺れていることから、風が吹いて花瓶を落としてしまったのだろうか。
部屋の奥に設置されているベッドのシーツは、とても客人を迎えるために整えたとは思えないぐしゃぐしゃな状態だ。
「あっ!」
私の後ろから部屋の中を見たメイが声を上げる。
何やら再び嫌な気配
ご覧いただきありがとうございます。★評価していただけると嬉しいです。




