挑戦は受けて立つ!
「レシピだけを頼りに料理の素人でも再現できるなら、このレシピは売っても大丈夫そうね」
私の言葉に、セスが口を開く。
「通常でしたら、レシピは開発した料理人が開いた時間を使って書き写したり、手の空いた者に書き写させたりしておりますがリコ様はいかがなさいますか?専用の人を雇うこともできますが」
「あー、書き写さなくてもいいわ。というか、ちょっと試したいことがあるんだけれど……」
「いったい、何をなさるつもりで……?」
部屋に、頼んだ粘土を持ってきたセスが首を傾げた。
「セス、暖炉に火を入れておいてもらえる?」
「それは構いませんが、寒いようでしたら服をお持ちいたしますが?」
「ううん、寒くはない……あ、まって、暖炉に火を入れるのはもったいないかな?調理場で、こう、じっくり一晩煮るような料理作ったりしてないかな?」
セスが、私が何が言いたいのか分からずに首をかしげつつも、途中で話の腰を折るようなことはしない。
「料理長に確認いたしましょうか?」
「お願い。朝まで火を絶やさない環境があればいいの。暖炉でも料理用の火でも何でもいいわ。なんなら外でたき火してもいい。もともとキャンプの遊びの一つとして本で読んだものだから」
「キャンプとは?それは遊びに使うので?」
しまった。キャンプって言葉、ここではないのか!
……まぁ、野宿とかがそのままキャンプみたいなもんだしな。わざわざ野宿して遊ぶとかするわけないのかなぁ。火で肉をあぶるバーベキューも、日常の食事だろうし……。
だめだ。なんだかここの生活にも慣れてきて、周りの人とも緊張感なく接することができるようになってきた分、気が緩んで日本のことをぽろっと……。
異世界の人に対するこの世界の人がどういう対応をするのかを調べないと。急に尋ねるのもおかしいだろうし。……やはり、まずは本か。
「そう、本で読んだの。なんだか、空想の物語で、えーっと、別の国というか世界から来た人が出てくる話で。そういうの面白いのよね。イザートの部屋にはそういう物語とかは置いてなかったんだけれど、どこかにないかな?」
「別の世界の人ですか?2000年前国を創造したと言われる初代王や、600年前国を滅ぼしかけた破滅魔の本でよろしいでしょうか?」
初代王?破滅魔?うわー。いい人と悪い人がいるの?それ、異世界から来た人は破滅をもたらすと忌避されるパターンがあるって話なんじゃ……。
「セスさん、違いますよ、異世界の王子に連れ去られる侍女とか、異世界から来た騎士様に恋をする姫とか、そういう本のことですよね?」
マーサが両手を体の前で握りしめている。
恋愛小説、異世界ものが、この世界にもどうやらあるみたいだ。
「あ、ああ、そういう……リコ様、そちらの方は私は詳しくないので、侍女に選書を任せてそろえておきます」
セスが
失敗したという表情を一瞬見せたような気がする。いつも取り澄ました表情ばかりのセスのちょっと感情が見える顔がもう少し見たいなんて思ってしまった。
「ありがとう。せっかくなので、セスも読みますよね?」
「は?恋愛小説を……ですか?」
「執事としていろいろな知識を持つのは必要なことなんでしょう?」
セスが何とかこの難局を乗り越えるべく思考を巡らせているように思えるから不思議だ。表情は変わっていないというのに、いつものようにすぐに返事が返ってこないだけで。
「確かに……異世界から来たとされる人物が伝承ではなく物語の中ではどのような扱いをされているのか全く知らなかったせいで、リコ様の要望に謝った対応をしてしまいましたから……。そうですね、リコ様がご覧になった本で特によかったと思われるものを2~3冊読ませていただければと思います」
そう来たか。私が読んだもので2~3冊選べというのね。
「侍女たちも、セスも読むと知れば、選書に気合が入るでしょうから、たくさん素敵な本が集まるでしょうね」
だったら、しっかり選んであげるわ!読書は私の一番の趣味なんだもん。しかも、ぶっちゃけ、この世界で流通している本の何倍もの本がある世界で、年間何冊の本を読んできたと思っているの。




