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はじまり

よろしくお願いします。

「闇侯爵の聖女になりまして~ご飯に釣られて皇帝選定会に出ています~」


皇帝を選ぶ時期がやって来た。

 この国の皇帝は、6つの領地を治める6大候から選ばれることになっている。

 任期は20年。20年ごとに新しい皇帝を選ぶための選定会が行われる。


 皇帝候補である6大候。


 水精霊の加護を受けし領地を治める、水侯爵

 土精霊の加護を受けし領地を治める、土侯爵

 木精霊の加護を受けし領地を治める、木侯爵

 風精霊の加護を受けし領地を治める、風侯爵

 光精霊の加護を受けし領地を治める、光侯爵

 最期に、精霊からの加護のない領地を治める、闇侯爵


 6大候は、それぞれが選んだ”聖女”と共に、”皇選宮”にて1年間選定の義に臨む。


 あー、なぜか分からないけれど、異世界に来てしまった。

 空は地球と同じく青いけれど、太陽が2つに月が3つ。そして見たこともない生物……ドラゴンみたいなのが飛んでる。

「3日目ともなると、あー、また飛んでる……としか思わなくなるから不思議だなぁ……」

 見慣れた。はじめに見たときは、ビックリして腰を抜かしそうになった。それから襲われるんじゃないかと恐怖で動けなくなった。

 たったの3日前なのに、もはや懐かしい……。

 3日前、突然この世界の、森の中に放り出された私。……何とかわだちの残る道を見つけ、助けを求めようとしたものの誰にも出会わず。

 ぐ~きゅるるーとしきりに鳴っていたお腹も今は声を潜めている。

 3日、水しか飲めてない。それもなんかやばそうな水。このまま死ぬのかもなぁ。

 サバイバル生活なんて、何の心の準備も道具の準備もないと無理だとよぉく分かった……。


 死ぬ前に、走馬燈のように人生を思い出すっていうけれど。

 7歳の時に妹が生まれた。妹はそれはかわいくて、両親もメロメロだった。

 もちろん私も妹がかわいくて仕方がなかった。3歳で妹はピアノを習いはじめ、10歳でコンクールで賞を取った。

 それからは妹は天才だ。将来はピアニストになるんだと両親は妹のピアノにかかりきりになった。有名な講師のレッスンを遠くまで受けさせに行く。レッスン料は1時間1万円は当たり前で。大学進学はあきらめ、就職した。給料の大半は妹のレッスン代にと家に入れることになった。

「凡才のあなたとは違って才能があるのよ。家族が応援するのは当たり前でしょう!こんなんじゃ全然足りないわ!休みの日にアルバイトも出来るでしょう?」

 ピアノ漬けの日々を送っていた妹はろくに勉強もしていなかったため高校受験に失敗。ピアノも何もかもやめてしまった。

「あなたのせいよ!ちょっと偏差値の高い高校に行ったことを鼻にかけてプレッシャーを与えたから!」

 母の言葉に、心の中で反論する。私は妹のように何かに才能がなかった。妹にかかりきりの両親に相手もしてもらえなくなった。だから、本を読んだり勉強をするしかなかっただけで、決して勉強が得意なことを鼻にかけたわけじゃないよ……。

 妹がピアノをやめて引きこもってしまうと、母親は精神を病みみ、父親は家を出ていった。

 引きこもりの妹と精神を病んだ母親の生活を私一人で支え……。

 突然この世界に来てしまった前日、23歳の妹が結婚するからと家を出て行った。

 「30歳にもなるのに、彼氏の一人もいないお姉ちゃんかわいそう。将来が心配」という妹に、「お姉ちゃんの心配をするなんて優しい子ね。それに比べてお姉ちゃんは何をやっても駄目な子よ。恥ずかしい」と母が答えている声が聞こえた。

 嬉しくて涙が出た。

 妹は結婚する。愛する人が妹を支えてくれるんだ。死にたいと言うたびに、必死に励ましてきた。服を買ってあげたり好きなだげゲームにお金をつかわせたり……。心のすき間が埋まればと頑張ってきた。もう、大丈夫なんだ。愛されていればもう、死にたいなんて言わないよね。それどころか私の心配をしてくれるようになったなんて。母も妹と会話ができるまでに回復している。

 私、こんな訳の分からない世界に来ちゃって、もう死んじゃうけれど……二人は大丈夫だよね。


ご覧いただきありがとうございます。


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