親友
「かなちゃん!!遊ぼ!!」
「うん…えなちゃん」
私には、幼稚園のときからの幼馴染がいる。彼女は水蓮衣奈こと、えなちゃんである。えなちゃんは当時、シャイだった私に気兼ねなく話しかけてくれていた。
「かなちゃん!!今度、遊園地行こうよー」
「かなちゃん。今日、顔色悪いよ…大丈夫?」
「かなちゃん!!お誕生日おめでとう!!」
「かなちゃん!!私たち離れ離れになってもずっーーーと親友だよね!!」
時が経ち、私が高校2年生になったころ
突然、えなちゃんから連絡が来たのだ。
「加奈、水蓮さんっていう人から電話きてるわよ」
お母さんからの便りを受け、電話機に向かいながら、思案げになっていた。
スイレンさん?…水蓮さん…水蓮衣奈…えなちゃん!?
幼稚園のときの記憶がフラッシュバックした。
そうだ、幼稚園のときに仲良くしていた、えなちゃんだ!!急にどうしたんだろう?
少し、緊張した面持ちで受話器を耳にあてた。
「…もしもし」
「かなちゃん?」
「うん!!えなちゃん、久しぶりだねー。急にどうしたの?」
「久しぶり!!えーと、今、かなちゃんどうしてるのかなーと思って…急に声、聞きたくなったみたいな?迷惑…だった?」
えなちゃんは若干、不安げな声色で聞いてきた。
「ううん、私もえなちゃんの声、久々に聞けてすごく嬉しい!!」
私たちは、昔のことや今の学校のことなど取り留めのない話で盛り上がっていた。
「えー、そうなんだ!!」
「うん、不思議だよねー。」
「あ、そういえば、わたし、彼氏出来たんだー。入学式で彼のこと見つけて、そこから好きになっちゃって、一目惚れだったなー」
私は彼氏が出来たことをえなちゃんに報告したくて伝えた。
「あー……え、そうなの!?おめでとう!!」
えなちゃんは一瞬、言葉に詰まったようにみえたが、そのあと嬉々として祝福してくれた。
うん?
私は、少し違和感を覚えたがすぐに納得した。
あ、なるほどねー。
「えなちゃん、もしかして…私のこと、幼稚園のころから何も変わってないと思っているなーっ!!」
「私、あの時みたいなシャイガールではありません!!今は恋する乙女なんですーっ!!」
「あはは、いつも私を慕ってくれていた、かなちゃんはどこへ行ったのかなー?今すぐに戻ってきなさいっ!!
私に甘えるのです!!」
「「あはは」」
笑い声が重なった。
「かなちゃん、今週の日曜日、暇?
もし暇なら、一緒に遊ぼうよ!!」
「うん!!特に用事が入ってないから大丈夫だよー」
「 そしたら、昼の14時に私のお家、集合で大丈夫かなー?」
「おお!!えなちゃんのお家!楽しみだなー」
私たちはそこで話を区切り、通話をやめた。
「じゃあ、バイバイ!!」
「うん!楽しみにしてるね」
そして日曜日、私はえなちゃん家に向かった。
えなちゃん家はクリーム色を基調とした淡水色の屋根に縁側付きの庭が備わっているお洒落な一軒家だった。
「わぁー、すごくおしゃれ!!」
私は興奮を抑えながら、
一度、手鏡を持って自分の髪型や服装を正す。今日は、久しぶりにえなちゃんと会うんだ。可愛く思われたくて、全力でおしゃれしてきた。
モノトーンを意識した薄ピンクの半袖Tシャツに下は、黒のプリーツミニスカートを身につけてきた。
可愛いと思ってくれたら、嬉しいなー
と願望まじりな思いを馳せながらインターホンに手をかけた。ピンポーンという音が部屋中にこだまするのを感じる。
数秒経ってから、玄関ドアが開かれた。
そこには……ダボっとした白のメンズTシャツをラフに着こなし、ハワイアンブールのショーパンとの組み合わせが似合っている、オルチャンぽい雰囲気のえなちゃんが立っていた。
え、えなちゃん綺麗なお姉さんって感じがしてすごく魅力的だ。私、高校生にもなってこんな幼そうな服装で着て、ホント恥ずかしいよーっ。服装選びをルンルンとしていた2時間前の私を殴りたい。でもその思いは杞憂に終わった。
「かなちゃん、すっごく可愛いーーーっ。」
扉から見えたえなちゃんが開口一番に口にした言葉がそれだった。
私はふぅーと安堵の息を漏らした。
「えなちゃんもすごく綺麗になっていて、一瞬、誰だか分からなかったよー」
その言葉に嘘はなく、綺麗なえなちゃんに目を奪われていた。
「かなちゃん、久しぶりだねー。あ、ここで立ち話もなんだし、あがって、あがってー、今日は両親が外出しているから、遠慮しなくていいよー」
私はお言葉に甘えて家に上がり、2階の突き当たりにある、えなちゃん部屋に入った。
無意識のうちに、わあー!と感嘆の声をあげた。
えなちゃんの部屋は、それはもう、おしゃれの一言に尽きる。
照明がファアリーライトでライトアップされており、床にはピンク色の絨毯が敷かれていた。
所々に可愛らしい小物が飾れていたり、小さいものから大きいものまで、クマのぬいぐるみがピンクのベットの上に居座っていた。まるでおとぎ話の世界に迷い込んでいるかのような幻想的な部屋だった。
私たちは、このメルヘンチックな部屋で雑談に興じていた。そして気づいたら、太陽が西の空に沈みそうになる夕方の時間帯になっていた。
「あー、楽しかった!!そろそろ、おいとまさせてもらうね。」
私は、時間が有限であることを惜しみながら、淡々と帰りの支度をしていた。
私が部屋のドアを開けようとした、そのとき…
えなちゃんが私の右手首をぎゅーっと握ってきた。
うーん?と首を傾げながら、えなちゃんの方を向くと
「かなちゃん、そこに忘れ物あるよ。」
えなちゃんはベット近くにある床を指で示しながら、教えてくれた。
「あー、ごめんごめん」
私はベット付近までいって身を屈めようとしようとしたその時、不意に後ろからぶわっと背中を押された。
「え、え?」
私は急に何が起きたのかが理解出来ずに困惑としていた。次第に目の前の状況が鮮明となり、ベットに押し倒されたのだと認識した。
「えーと、えなちゃん?」
えなちゃんは私の足をベットの方に傾け、仰向けの状態にさせた。
そして、私に覆い被せるようにえなちゃんも仰向けとなった。
「本当はねー、かなちゃんが彼氏いること知っていたんだよー」
私は息を呑む。
「たまたま、この前、最寄り駅の路地裏でかなちゃんを見つけて、声を掛けようとしたんだけど……」
「ちょうど、タイミングが悪かったんだよねー。かなちゃんが男の人とキスするとこを目撃してしまったんだよね…」
えなちゃんは寂しいそうな面持ちで言葉を紡ぐ。
「わたしね、かなちゃんが見知らぬ男の人とキスをしたとき、胸がギスギスと鋭利な刃物で突き刺されたような痛切に苛まれたんだ……この感情をなんていうのかな…嫉妬かな…」
えなちゃんは右手を胸に当て、苦悶そうにしていた。
しかし突然、その表情は激変した。
「でも、でもね!!わたし、分かったんだー!!」
まるで子供がキラキラ光る石をみつけたかのように瞳を爛々と輝かせながら、えなちゃんは言った。
「かなちゃん、かなちゃんは!!温もりが欲しかったんだよね!!
そしたら、そしたらわたしでもいいよね?
だって、わたしたち親友じゃん!!」
そして、えなちゃんは右手を私の太ももから沿うようにスカートの中に入れてきた。
「あっ、あ……ん……ッ」
滑らかに、なめらかに
お母さんが子供を愛でるように丁寧にそして優しく、撫でてきた。
カーテンの隙間から漏れ出す西日がえなちゃんの顔をかすめ、蠱惑的な笑みを映し出す。
「ふふ、かなちゃん!!今、すごく可愛いよ」
私は頬が紅潮していくのを感じ、必死になって言葉を紡ごうとする。
「えな…えなちゃん、こういうのは……あっ……えっと、よくないと…思い…ま…す。」
えなちゃんは不思議そうに小首を傾げる。
「え、どうして?彼氏に悪いから?
大丈夫だよ!! わたしが代わりになってあげるね。ずっとそばにいるよ。」
私は首を振った。
「えっと、そ…そういうのではなく…て」
「うん?ああ、大丈夫だよ。今日、両親は家に帰ってこないよ。だから安心してね。今だけは二人きりだから。」
「いや、ちが……」
私が口にしようとすると、
言葉を拒絶するように唇と唇を添い合わせる。
えなちゃんからミモザの良い香りが漂ってくる。
そして一旦、顔を離し
優しい瞳で私を見つめてきた。
「私たち、ずっーと親友だよ」
垂れた髪を耳にかけ、もう一度、唇を重ね合わせる。
そして、何かが優しく口の中に入ってくる。
からめて、からめて、絡めるように
私もそれに呼応して、絡めていく。
共鳴し続け、一体になったような感覚に落ち入っていく。
彼氏とのキスは緊張してぎこちなく、甘いキスだった。
えなちゃんとのキスは、快感や多幸感の波が襲ってきて、とても気持ちいいキスだった。
私たちは、唇を離し合うと西日で輝いた一糸が纏まりつき、どこまでもどこまでも繋がっていく。
まるで、これからの私たちの関係を暗示してるかのように。
朱色の陽光が細々と薄れていき、私たちを夜の微睡みへといざなっていく。