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第二話 受諾の日②

連続投稿です。

 ――僕は走った。

 突風を起こすほどの速度で、魔境大森林を駆け抜けた。

 この【妖魔大進行(スタンピード)】は、主格である【妖魔(デーモン)】を叩けば収まる。


 今までの僕ならば、このような考えで突っ走ることは無いだろう。

 だが、今は実験という名目で行うことがある。

 もし僕に本当に【魂魄技能(ストック)】が目覚めたのだとしたら、今まで格上を相手にしてきた事を生かして太刀打ちできるかもしれない。

 それに、さっきの威力を考えると、もしかしたら僕だけでもいい所まで行けるかもしれない。

 もし仕留めきれずに僕が殺られたとしても、あっちで父さんも待っているだろうしな。


 主格はまだ現れていない。

 出現推定時刻は今から七分後の03:68:89頃。

 出現場所は、ここから真っ直ぐ東に2km程。

 僕はそこに行くまでに五分も要さない。


 そこで、戦闘の準備をすればいいだろう。


 『──ヤ? ーヤ? トーヤ? 聞こえるか、トーヤ?』


 僕がそんな事を考えて走っているさなか、耳につけた通信装置から小隊の中でも僕に一番良く接してくれていた女性隊員のセディア・トアルゴさんの声が響いた。

 響いた、とは言っても僕の耳孔にだが。


 「はい、聞こえます」

 『良かった。まだ生きていたか』

 「はい。一応無事です。」

 『一応、か、、、解った。今どこにいる?』

 「西入り口から北へ2016km、東へ5097km程の地点です。それと、北入り口から西へ708kmの地点に要救助隊員がいます。」

 『、、、解った。今救護隊を其処へ向かわせよう。私は直ぐにそちらに向かう。』


 この機器がしっかりと機能しているところから見て、ここから500km以内には入っていると考えると、僕が向かっている地点に着くまでには約十分程か。

 そうすれば、僕が【妖魔(デーモン)】を討ち損じても、何とかしてくれるだろう。


 「解りました。僕は《ポイントT》へ向かいます。」

 『わか――は? なんて言った?』

 「《ポイントT》へ向かいます。」

 『待て、私がそこに着くまでには最低でも十分はかかる。それまでトーヤ一人だぞ? 解っているのか?』

 「はい。解っています。」


 僕は走りながらそう答える。

 普段行っているトレーニングの御蔭でこの位ならそこまで体力を削らずに走れる。


 『それに、トーヤ、君には――』

 「其処は否定も肯定もしません。今は」

 『――今は?』


 僕がその声を聴いたところで一度通信が切れる。

 多分、通信圏内を出たのだろう。

 僕はそれを気にすることなく、ペースを落とさないように走る。


 残り時間は6分程。


 そして、僕が《ポイントT》に着くまでにかかる時間は、後2分19秒程。

 周囲には【妖魔(デーモン)】がワラワラと湧いている。

 だがそれに構ってはいられない。

 今は一刻も早く主格を落とさなければならないから。

 それに、確認できる限りでも周囲には各小隊の隊員が数十人はいる。

 これならば、ここは任せられるだろうという事でもある。


 僕は一気に加速して《ポイントT》へと向かう。


 ――「、、、ッ、と。着いたな。」


 僕は赤く光る地面を見てそう呟く。

 赤、、、というよりは、少し黒みがかっている。

 それに、黒雷がバチバチと音を上げて走っている。

 時折、ドクンッ、と、強く脈打つかのような振動が走ることもある。


 僕は既にそこに漂う威圧感に圧倒されている。

 それを紛らわせるかの様に柔軟運動を行う。

 暇つぶしの意図もあるが、今は兎に角何か異変があったら直ぐに対応出来る様にしておかなければならない。

 残り時間は1分76秒。

 僕は最後に、先程と同様に意識を高めることにした。


 すると、身体が、内側から熱くなっていく。

 汗が滴り、目は乾く。

 口の中の唾は既に乾ききっており、舌が上顎にくっ付く。


 そんな現象が起こっているさなか、先ほど気付かなかった、軍服の変化に漸く気付く。

 白色のラインが、赤色に光っている。

 本来これは、【魂魄技能(ストック)】を保有するものが、【魂魄技能(ストック)】を発動した際にその力を自動で制御するための物で、本来は白色にしか光らない。

 つまり、僕の【魂魄技能(ストック)】はその制御すらも上回る程強力なもの、もしくは、危険なものという事になる。


 僕はその状態で待機する。

 そして、――。


 00:00:03――

 00:00:02――

 00:00:01――


 ――00:00:00


 残りの時間が、0となる。

 途端、一際大きな振動が魔境大森林を走り抜けた。

 何とか踏ん張ってこらえたが、僕も吹き飛ぶのではないかと思うほどの大きな揺れ、、、否、波だった。


 僕は腰に下げてある相棒――【ダイトナイフ】を逆手にもって取り出す。

 そして、信じられない光景が目の前に広がった。

 土で出来た様な、人の姿をした生物が、地面から生えてくるのだ。


 生えてくる、と言うのは比喩表現ではなく、実際に地面から延びる土の根の様な物に繋がっているのだ。

 いや、露出しているし、茎といった方が分かりやすい。


 男のような感じだが、何処か女のようにも感じる。

 これは、無性別という事だろうか?

 僕はその怪物を見据える。

 すると、僕の視線に気づいたのか、怪物が、こちらを振り向く。


 「ン? 人間カ?」


 声はひどく澄んだ、女性のような声をしている。

 僕はその声に返事を返す。


 「、、、ああ。」

 「ソウカ。人間ヨ、何故此処ニイル?」

 「、、、お前を、殺すためだ。」

 「、、、愚カナ」


 目の前の怪物がそう言うと、僕の右腕に鈍痛が走る。

 見れば、浅く切れ目がついている。

 そして、怪物の左側に、とても鋭い刃物の様な物があるのが見える。

 きっと、今の瞬間に僕の腕を切ったのだろう。


 「貴様ニ、今ノガ見エタカ?」

 「いいや、見えなかった。」


 確かに、今のは見えなかった。

 だが、こいつを倒す、未来は見えた。

 その理由は――


 「人間ヨ、我ニ跪ケ。」

 「いや、その必要はないかな。」


 僕は一歩、歩みだした。

 目の前にいる怪物は、僕を見て呆れた様に息を吐くと、僕めがけて先程のナイフを振り下ろしてくる。

 その瞬間に僕は口を開いた。


 「――【地獄豪炎】!」


 刹那、周囲の温度が一気に上がる。

 空気中にある水分すらも蒸発し、周囲の木々が枯れ木と化す。

 周囲の音は全て乾いた音へと変わり、僕は逆に潤いが戻って来るような感覚がある。

 そして、怪物のナイフも――


 「――!?」


 ――カサカサに乾きはて、僕に当たった瞬間にぼろぼろと崩れていく。

 尚も僕はゆっくりと怪物へと近づき、気づけばその怪物が生えている場所の根本へと来ていた。

 僕は【ダイトナイフ】を握り締め、横に思いきり振るった。

 すると、炎の剣閃が飛んでいき、後ろの枯れ木達を一掃した。

 怪物はというと――。


 「はア、成体に成るまデ、かなり長かっタ。」


 額に汗を浮かべ、空に止まり、僕の事を見下ろしていた。

 奴は更に、僕に名を言ってくる。


 「我ハ、生きながらにしテ、世界を蝕む者、『陜穂ク也視繧キ繝・繧ソ繝シ《蝕世王シュター》』」


 名を名乗る途中、その顔に仮面の様な物が生成される。

 その仮面で顔が完全に覆われると、途端に人の言葉ではなくなる。

 何を言っているのか。

 少なくとも、僕には分らなかった。


 「莠コ髢薙h謌代↓霍ェ縺第怙蠕後?繝√Ε繝ウ繧ケ縺?縺《人間よ我に跪け、最後のチャンスだぞ?》」


 僕は、怪物が何を言っているかよく解らなかったが、その灼熱の身体のままで怪物に突っ込むことにした。


 「蠕薙o縺ェ縺?°縺ェ繧峨?豁サ縺ュ《従わないか、ならば死ね!》」


 不快な音で声を形成し、何を言っているか理解できない言葉を紡いで、その瞬間に僕に攻撃を仕掛けてくる。

 先程の鋭く鋭利な刃物で僕を貫こうと、攻撃をしてくる。

 先程は避けなくとも良かったナイフだが、このナイフは避けたほうがいいと本能が告げている。


 僕は一気に加速してそれを避ける。

 すると、右の腕に何か鋭い痛みを感じた。

 其処を見ると、小さな切り傷が出来上がっており、赤黒い血が垂れ流しになっている。

 そして、僕はもう一度、顔を顰めることになってしまう。


 僕の視線の先には、地面に刺さる一つの、白銀に光る鋭いナイフがあった。


 僕は怪物の方を見る。

 あれは僕の知る【妖魔(デーモン)】とは、似て異なるものだ。

 その証拠に、普通の【妖魔(デーモン)】と違い人型であり、周囲には数十のナイフがフヨフヨと漂っていた。

 それらの全てはあの怪物に繋がっているが、先程の攻撃を見るに、伸縮自在なのだろう。


 「繝輔ワ繝上ワ縺ェ縺九↑縺九d繧九〒縺ッ縺ェ縺?°縺ェ繧峨%繧後?縺ゥ縺?□《フハハハ、なかなかやるではないか。ならこれはどうだ?》」


 瞬間、辺りを漂うナイフが一斉に僕に迫る。

 僕は全ての感覚を研ぎ澄まし、それらを直感で捌いていく。

 木に登り三本を避ける。

 その途中で【ダイトナイフ】を振るい切断する。

 そんなさなかに迫るナイフを【ダイトナイフ】で弾く。


 「繝輔ワ繝上ワ雉「縺励>縺樔ココ髢《フハハハ! 賢しいぞ人間!》」


 途端、ナイフの速度が上がる。

 僕も捌くのが難しくなって来ている。

 被弾を何回か浴びている。


 「豁サ縺ュ窶補?補??《死ねーーー!》」


 眼前にとてもじゃないが避ける事も受ける事も難しい一撃が迫る。

 そのナイフと僕との間にあるのは、僅か数センチ。

 流石に一撃位は当てたかった――。


 刹那、乾いた暴発音と共にナイフが消える。


 僕は受け身をとって地面に足をついて怪物を探す。

 すると、腕を盾の様にして顔を隠している。

 その腕からは悶々と煙が上がり、透けた黄緑色の液体が垂れている。

 血だろうか?


 そしてその次に、暴発音があった方を見てみる。

 そこには――


 「待たせたな、トーヤ。」


 ――セディアさんが、弾砲を構えて立っていた。

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