エピローグ
「ロイズ様……すごく、似合ってます」
ソフィアは胸をおさえた。ロイズ王太子の漆黒の髪に黒いふさっふさの黒うさぎの耳が映えなんとも可愛らしい。ロイズ王太子もソフィア公爵令嬢のうさぎ耳のあまりの可愛らしさに卒倒しそうだった。ロイズ王太子の蒼い瞳は揺れ、目の前のソフィア公爵令嬢の姿を直視できないものの、どうにか記憶に焼き付けようと四苦八苦している。
彼の前には白いうさぎ耳をつけたソフィア公爵令嬢がシンプルな白いワンピースを着て立っている。控えめに見積もっても最高だった。このうさぎーらんどで二人ははじめてのテーマパークデートだった。あれから誤解が解け、本当のソフィアの誕生日が分かったところで、二人してうさぎーらんどに行く流れになったのである。
(これは……思ってたのと随分違うな)
リードしなくてはと肩ひじ張っていたロイズ王太子の手をとってソフィアはまるでここが庭だとも言わんばかりに案内しだしたのだ。さすがは一度でなじんでしまうソフィア公爵令嬢。アミーユとたびたび遊びに来ていたものだから勝手知ったるものだ。
(あれだけ辛かったうさぎーらんどが嘘のようだ……)
ロイズ王太子は感動した! 白うさぎと黒うさぎの二人は滝をくだるボートに乗って絶叫したり、ひんやりした洞窟の迷路をどきどきしながら進んだり、大きすぎる棒つきウインナーを仲良く半分こしたりした。
パークのスタッフは生真面目な顔をした美男美女がふわふわのうさぎ耳を揃いで色違いに着けているのを見て心臓がときめいた。なんてかわいらしいカップルなのだろう!
「ああ、そうだ。ソフィア……誕生日プレゼントだ」
ロイズ王太子はばくばくする心臓でさらりと小箱を手渡した。相変わらずの涼しい顔で渡された細い箱にソフィア公爵令嬢の心はどきどきしていた。
細い箱を遠慮がちにあけると、思っていた通り中にはネックレスが入っている……!
シンプルなシルバーのハートのネックレスだった。あまりにも定番すぎるチョイスであったがソフィア公爵令嬢は嬉しかった。なによりあの(いろんな意味で普通でない)ロイズ王太子がこんな普通の贈り物をしてくれる事実が嬉しかった。
「……つけてやろう」
ロイズ王太子はあのスパルタレンタル彼女の指導を思い出してそっとソフィアの首元にネックレスをかけた。ソフィアは嬉しくて涙が出そうだった。
「ありがとうございます……一生の思い出にしますね」
「ああ、……私も覚えておこう」
絶対記憶保持者ロイズ王太子はそもそも忘れようがなかったが、ソフィアの言葉に同意を返した。なにしろ女性が自分とちがう思考回路をもっているのだと痛いほど身にしみてわかったのだ。ささいなことでも言葉で返さなくては。
ソフィアがなにやらさくさくと予約をとって、ロイズ王太子は観覧車に乗っていた。この密室の空間で安らげるなんてソフィアがソフィアであるからだろうと胸に響いた。眼下に徐々に小さくなっていくテーマパークを見下ろして、ソフィアは碧の瞳を煌めかせて魅入った。その横顔を瞳に焼き付けながらロイズ王太子は幸福だった。
「ずっと気になっていたんですけど、この前の休日うさぎーらんどに一緒にいた金髪の女性、誰なんですか?」
逃げ道のない密室で突如切り込まれてロイズ王太子は窮地に陥った。本当に、このソフィア公爵令嬢は予想のななめうえからえぐってくる!!
ロイズ王太子は降参した。もうすっかり白状してしまうほかない。
「すまない……君と初めてテーマパークに来るのが不安で、下見に来たんだ」
ロイズ王太子の思いもがけない可愛らしい言葉にソフィアは目を丸くした。あれだけ悩んでいたのが嘘みたいだ。
ロイズ王太子は顔から火が出そうだった。ソフィア公爵令嬢の方を見るのも恥ずかしいくらいだ。
ちらりと顔を盗み見て、ロイズ王太子はもっとはやく見ればよかったのにと絶句した。
あれだけ表情の変わらなかったソフィア公爵令嬢があまりにも自然に笑っていたのだから……!
いつも涼しい印象を与えるつり上がった碧の瞳は優しげに細められ、自然に上がった口角はアルカイックスマイルを形づくっている。聖母のような慈愛のこもった笑みに、ロイズ王太子の時は止まった。まるでこの世界には二人しかいないかのようだ。
「愛してます、ロイズ様」
その艶のある唇から紡がれる言葉に心臓を撃ち抜かれる。ああ、本当にいつもいつも翻弄してくれる……!
「あ、ああ、わ、私も……あ、いしている」
もごもごと口ごもりながらロイズ王太子は返答した。これまでで一番の窮地だった。呼吸が、くるしい。
その耳がわずかに赤らんでいるのをソフィア公爵令嬢だけが知っているのだった。
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