デートの下見
一方そのころの王太子
…………
「なんで長蛇の列に並んでるのにひたすら意味の解らないことばかり垂れ流しているんですか? そういうときはもうちょっと楽しい話題をふってくれません? ただでさえ、暑いのにわざわざ暑苦しい話題を出さないでください」
ともに長蛇の列に並ぶ、目の前のレンタル彼女ニコラの言葉にロイズ王太子は言葉を失った。彼は今日、ソフィア公爵令嬢を初めてのデートにさそうための下見として、このうさぎーらんどの内情を調べるために来ていた。彼はより正確な情報を得るために、『はっきり言ってくれる女性希望』と出していたのだが、……どうやらドMと勘違いされているらしい。目の前のニコラは金髪のロングに水色の瞳を持っており、フリルのふんだんについた可愛らしい服とこのカミソリのような毒舌のギャップがすさまじい。このぐっとくるギャップにおそらくファンも多いのだろう。可愛い天使のような笑顔でニコラは畳みかけた。
「だんまりやめてくれません? だいたいその帽子、なんで室内でもかぶってるんですか? 私の顔が見れないとかそういう感じですか? あとぼそぼそ小さい声で話すのもやめてください。いらいらするんで」
ロイズ王太子が室内でも帽子をかぶっているのはもちろん身バレを防止するためだ。このレンタル彼女も王太子という身分を伏せて利用登録したものであり、ニコラは王太子が目の前にいるのだとは露も思わないだろう。ぼそぼそ話しているのももちろん声からの身バレ防止だ。一見して不審な動きである。
「ああ、すまない。善処する」
普段ソフィア公爵令嬢の思いやりのベールに包まれてぬくぬく過ごしていたロイズ王太子は一般的な視線との差異に困惑した。そういえば劇場で出会ったソフィアの友人にも不審な目を向けられていたような気がする。普通に話をしてくれたソフィアはなんて天使なのだろうかとあらためて彼の婚約者に対する愛が思い返された。
「はあ? 善処するって何? かっこつけないでくれません? 一回鏡で自分の姿をよく見てきてくれません? デートにその格好で来るとか、破局しにきたとしか思えませんから」
ニコラの言葉にロイズ王太子は自分の姿を振り返った。彼は顔の隠れるつばの長い帽子に、大きめのマスク、首元に広めのストール、サングラスをかけて、服はまあ地味目の記憶に残らないようなものを着用している。本当に、……どうしてソフィア公爵令嬢はロイズ王太子だと認識できてしまったのであろうか。これもひとえに愛のなせるわざである。
「ああ、……すまない」
「……もっと喜んでくれません? これじゃ私がいじめてるみたいじゃないですか」
そう、ニコラは誤解していた。『きつめの彼女希望』という彼女役オーダーに仕事意識の高い彼女はばりばりに合わせにいっているのだ!
「私はもともと感情を出すのが苦手なのだ……」
王太子は白状した。彼が感情を出すことなどめったにない、それこそあの交流会でとっさに身体が動いてしまった時くらいのものだ。
「……なんですかそのだから仕方ないっていう口ぶり。相手に合わそうという努力がまったく感じられませんね! だから入り口から一番遠いアトラクションに一番に向かって、午前の半分を列に並ぶことで消費してるんですよ!」
ニコラの言葉にロイズ王太子は首をひねった。一番奥から巡れば、帰るころには出口につく、なんとも効率的ではないか。何をこの目の前の女性は腹をたてているのだろう。
「お相手ははじめてここに来るんですよね!? こんなに道中いろいろあるのにすべて無視してとにかく歩かせるって苦行に来てるんですか? 長時間歩かせて疲れたところに長時間列に並ばせて、日光の照りつける中頭の痛くなるような話を延々と垂れ流すんですね!」
ニコラの言葉に王太子は顎もとに手をついて考えた。そうか、それでこの『うさぎーらんど』はカップルで来たら別れるとかいわれているのか、下見に来ておいてよかった。
「なんでだまってるんですか。ばかにしてます?」
ロイズ王太子は頭が痛くなってきた。
(ロイズ様……)
立ち尽くしたソフィア公爵令嬢の瞳には涙が滲んでいた。まさかの婚約者の不貞現場を目撃してしまった。そういえば最近ロイズ王太子に『うさぎーらんど』に興味はないかとかきかれていたような気がする。『うさぎーらんど』って何ですかと返したらあからさまにほっとしたような顔をされたものだ。まさかこういうことだったなんて。
「え! あ! そっか、あの劇場の? ってソフィア様泣かないでえ。え! もしかして、そういうこと!? ソフィア様あっちで休みましょ」
アミーユはわたわたした。どうやらソフィア公爵令嬢の大切な人だったらしい。あの帽子を目深にかぶって奇抜な恰好をしているのがタイプだったとは。人の好みは人それぞれである。アミーユは人通りの多い通りに立ち尽くすソフィアの肩をとって近くの土産売り場に飛びこんだ。通りの通行人の視線が痛かったのだ。冷房の効いた店内でぬいぐるみのパペットをはめてアミーユはソフィアの気持ちをなだめた。このパペットはうさぎーらんどのマスコットキャラクター『ウサッギーちゃん』である。
「『どうしたんだい! ソフィア、君のかわいい顔が台無しだよう! ボクはいつでもきみの味方なんだ! さあ一緒に歌おう!』」
腹話術でウサッギーの声真似をするアミーユに、ソフィアは思わず笑った。涙をぬぐいソフィアは感情をもらしてしまったことを詫びた。王妃教育をうけている彼女らしくない失態だ。
「びっくりはしましたけど、そんな気にすることでもないですよう。水分失ってのどでも渇いたんじゃありません? あっちでスムージーでも飲みましょ!」
ぱっとパペットを棚にもどしてアミーユはソフィアの手を引いた。その明るさにソフィアは救われた。
キウイ味のスムージーを吸いながらアミーユは魔道具の板を眺めていた。
「どうしたんですの?」
ソフィアはパイン味のスムージーを飲みながらアミーユの見てる魔道具の板に顔を近づける。
「ん、 予約とれたんであっちのアトラクションのりましょ! ソフィア様高いとことか平気ですよね?」
さりげなくアトラクションの事前予約をとったアミーユにソフィアは感嘆した。これぞ経験の差だ。
「え、 まさかあの長い列並ぶ気でいました? ……まあそれも楽しいでしょうけど」
ロイズ王太子の知らない間にソフィアのはじめて(のうさぎーらんど)は奪われ、そして手慣れたアミーユのスマートなデートによってデートのハードルは上がってしまったのである!




