伝わらない誕生日
補足:ここのページは雰囲気でふわっと読んでください。
CとかEとかはチェス盤の横の並びです。
ロイズ王太子が高次元の話を振ってるように見せかけるためにネットでひっぱってきましたが、多分数学科の人からみたら大したことないことを話しています(私からは難しくきこえるのだ)
…………
「ああ、まいった」
チェスの盤上は中盤のところだ。まだまだ先なんて見えない。ソフィア公爵令嬢はロイズ王太子の涼しげな降伏に耳を疑った。一体何手先まで読んでの投降なのだろうか。そしてソフィア公爵令嬢はロイズ王太子のチェスの駒の動かし方に違和感を感じていた。
(まるで、私がそこに置くように誘導されているような……)
そう、今二人がさしているこれはロイズ王太子による接待チェスだ!
ソフィア公爵令嬢がチェスの対局を重ねるごとに使っていない手がなくなってだんだんとぐだぐだになってきたのをロイズ王太子は彼女が自分とチェスをしたくなくてわざと手を抜いているのだと判断し、逆に接待しだしたのだ。
もはやなんなんだろう。本末転倒である!
そのソフィア公爵令嬢のわずかに見開かれた碧の瞳にロイズ王太子は頬を赤らめたい気持ちでいっぱいだった。だがその麗しい顔は相変わらずの無表情である。
(気づいたかソフィア。そう、今さっき私のさしたこの(3,5)そして(5,7)という盤上の並び……君に見える向きからはそうみえるだろう。”双子素数”と呼ばれる、差が二である二つの素数の組だ。運命の糸で強く結ばれた二人、まるで私と君のようだ。痛切に心に響くな……)
そんなこと……ソフィア公爵令嬢に伝わるわけがなかった!!
(ロイズ様が私の力不足に対して煽ってきている……!?)
ソフィア公爵令嬢は打ちひしがれた。彼女には別の意味で受け取られていたのだ。
どうやら彼がわざと変な向きに駒を動かしていることは伝わってしまっているようだった。
「そうだ、クイズでもしよう」
そのまま流れるように二回戦目のチェスを始めながら、ロイズ王太子は涼しい顔で言った。どうやら彼はチェスをさしながら同時並行でクイズを出す余裕があるらしい。
「ええ……?」
ソフィア公爵令嬢はロイズ王太子の会話のこの急ハンドルからの高速スピンについていけなかった。ソフィア公爵令嬢の目が回る。この目の前の王太子は宇宙人か何かなのだろうか。クイズなんて長蛇の列に並んでいる時の暇つぶしに話すようなものだろう。
「まず君の生年月日を思い浮かべてくれ。ああ、口にしないで頭で思い浮かべてくれ」
「え……ええ」
まさかの頭を使うボードゲームをしなから頭を使うクイズである。不親切にもほどがある!!!!
「その生まれた月を四倍してくれ」
ロイズ王太子は涼しい顔をしながらチェスをさしていく。ソフィア公爵令嬢はその駒の進路を塞ぎながら、掛け算をしなくてはならなかった。
「つぎにその数に九を足してくれ」
ロイズ王太子はまたもやチェスをさしながら続けた。ソフィア公爵令嬢はもう頭が大混乱だ。
「出た数字を二十五倍してくれ」
「え、えええ??」
ロイズ王太子の唯一の欠点は他人の心情を慮れないことだろう。秒で暗算できてしまう天才ロイズ王太子は彼女に計算機を手渡すということを忘れていた。
「出た数字に君の誕生した日付のほうを足してくれ」
これは……クイズなのか!???
「最終的に何の数字になったか教えてくれないか?」
ソフィア公爵令嬢はチェスの返しをしながら混乱した。目の前のロイズ王太子は熱い蒼の瞳でこちらをじっと見つめてきている。
「え、ええと535……あ、まいりました」
ソフィア公爵令嬢の投降の言葉にロイズ王太子ははっと盤上を見た。ソフィア公爵令嬢はあらぬ方に駒を動かしまくって自滅してしまっていたのだ。
ソフィア公爵令嬢は暗算はあまり得意ではなかった。二十五を掛けるところで計算ミスをした値をロイズ王太子に告げた。
(そこ(535)から225を引くと誕生日がわかるから三月十日生まれか)
これは誕生日あてクイズだ。ロイズ王太子はなんとかソフィア公爵令嬢の誕生日(本当は三月十五日)を本人に知られることなく手に入れたいだけだった。ソフィア公爵令嬢はクイズの答えを教えてもらえていないことに疑問をさしはさむ余裕もなかった。
ロイズ王太子はソフィア公爵令嬢に悟られるかわりに……偽の誕生日が手に入った!!
そしてロイズ王太子のこの奇天烈な言動にも、ロイズ王太子に唐突に課せられる難題にもへこたれることなく一途にロイズ王太子を想うソフィア公爵令嬢はまさに彼にぴったりの存在であった。論理で構成されるロイズ王太子に対して感性で構築されているソフィア公爵令嬢は互いに補完する存在でもあったのだ。
二人の出会いは幼少の頃だった。すでに人より頭一つ突き抜けていたロイズ王太子の婚約者としてソフィア公爵令嬢の名があがったのは、彼女の家が公爵家であるだけにとどまらない。五歳という幼さですでに大人の思いもよらない発想を持っていたロイズ王太子に見合うほどの輝きをもった少女であったのだ。
「ここでガーといってバン」
ソフィア公爵令嬢は初めて顔合わせたロイズ王太子の擬音とともに書き綴る数式の羅列にひるまなかった。彼女の感覚は常人を凌駕する。ロイズ王太子の数字の羅列を読むことをはなから放棄して感じることに着目していたのだ。




