かみあわない二人
あのプライドの高いロイズ王太子が子供のようにこちらをじっと熱い瞳で見つめている。彼はソフィアが一口飲んだ後の桜ライチを飲む気でいるのだがそんなことソフィアにわかるはずもない。
「(代わりに)飲みましょうか?」
遠慮がちに告げられるその言葉に違和感を若干感じながらもロイズ王太子はうなずいた。
「ああ」
ソフィアの小さな唇が桃色の桜ライチを吸い込んでいく。ロイズ王太子からの熱いまなざしに照れながらソフィアは飲み切った!
ふわりと口の中に爽やかなライチの瑞々しい味が広がり、鼻を抜ける桜の香りが春の訪れを告げるような、そんな優しい味だった。
「すっきりして飲みやすいですわね」
透明な容器の中が空になったのを見てロイズ王太子の瞳のハイライトが消えた。
彼の予想のいつもいつも斜め上をいってくれるこのソフィア公爵令嬢こそ天才肌ロイズ王太子を振り回せる唯一の女性だ。
空の容器を返されてロイズ王太子は打ちひしがれた。
テーブルにつっぷしたロイズ王太子を見てソフィアはいよいよ彼は待ちくたびれているのだと焦りを強くした。けれどもう彼女の胃袋は悲鳴をあげていたのだ。
(これは……飲み切れませんわ)
彼女のLLサイズのミルクティーはまだあと半分も残っていた。この中に入っている団子がかなりお腹にたまるのだ。しかしわざわざロイズ王太子が選んでくれたこのLLサイズ、残してしまってはこのロイズ王太子の選択が誤っているとつきつけるようなものだ。
「私、ちょっと化粧室に……」
ソフィア公爵令嬢は席を立った。とりあえず少しでも体内の水分を減らしてこようというフードファイターの禁じ手のような選択だ。
「ああ……」
ロイズ王太子はテーブルにつっぷしたまま相槌をうった。
ソフィアは化粧室で考えを巡らせた。いかにしてあと半分のミルクティーを処分するか考えていたのだ。王太子の目を盗んでこっそり捨てるとかできるだろうか。飲み物を無駄にしてはいけないのは重々承知だが、先ほどの王太子の飲み物が決定打となってもうこれ以上一口も喉を通りそうにないほど胃袋はぱんぱんだった。
(いっそお行儀は多少悪いかもしれないけれど持ち歩くという手も……)
思いついてソフィアは頭を振った。彼女はこれでも王太子妃候補、周りの目を気にしなくてはならない立場なのだ。お行儀の悪さなどさらしてよいものではない。
悩みながらソフィアは席に戻った。テーブルに突っ伏したロイズ王太子がぽつりとつぶやく言葉に思わず救われたのだ。
「私もタピオカミルクティーというものがどういうものなのか市井の動向を知る必要があると思うのだが」
ちらりと向けられる伏せた状態からの見上げる瞳はサファイアブルーの美しい色だ。ばっちりと開いた双眸はまっすぐにソフィアの碧の瞳を見つめていた。
「まあ、そうですね」
ソフィアは感動した。もうこれ以上飲めないという彼女の心情をおもんぱかって、喉が渇いていないロイズ王太子がかわりに飲んでくれようとしている……!
(やさしすぎませんか……すきです)
(く……自分から言い出す羽目になるとは……)
ロイズ王太子はその無表情の内側で大いに敗北感を感じ羞恥に悶えていた。
残りのタピオカミルクティーを涼しい顔で全部飲み干すロイズ王太子をソフィアは尊敬のまなざしで見つめていた。彼女は飲み物を無駄にすることなくこの窮地を乗り切ったのだ。そもそもソフィアにわざわざLLサイズを選択したのは飲みものを恋人らしくシェアしたいというロイズ王太子の下心あっての窮地だったのだが、そんなことソフィアの知る由もなかった。




