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ひとくち頂戴


 ででん、とテーブルに乗った見たことのない飲み物にソフィアは目を白黒させた。

 細長い容器にストローが刺さっており、中にはおそらくミルクティーと黒い水玉の何かが入っている。向かい合って座るロイズ王太子は色違いの飲み物を持っていた。


「ああ、なにやら最近女性に人気の飲み物らしいからな」


 涼しげにさらりと言ったが、恥ずかしげもなく城の女性という女性に流行の甘味を訊いて回ったのが昨日のことである。


「この中の黒いものはなんでしょう……?」


 ソフィアは飲み物を持ち上げてその透明な容器をくるりと回しながら中をまじまじと見た。


(くっ……かわいいな、ソフィア……)


 その初々しい様子が王太子ロイズの心にクリティカルヒットした。いつも涼しい顔をしているツン令嬢ソフィアのこの無防備な表情は見ようとして見られるものではない。おそらく二度目からは表情も変えることなく適応してしまうであろう彼女の貴重なこの素人感だ。


「それはデンプンの塊だ。気にすることはない」


 ソフィアの訊きたいことは物質の構成成分ではなかったのだが、ソフィアは妃教育のたまもので口答えはしなかった。にこりと微笑んでいる。


 ソフィアの小さな唇がストローを咥え、ゆるゆると太いストローの中を黒い団子が上っていく。王太子ロイズは思わずのどをごくりと鳴らして魅入ってしまった。


「もちもちしてますわね。食べたことない食感ですわ」


 真面目に食レポするソフィアに王太子ロイズの胸はどきどきしてきた。


「そちらの方は桃色ですわね。苺味ですか?」


 ソフィアの言葉に王太子ロイズははっとする。


 昨日の晩に練っていた策にまんまとソフィアがかかったのだ。そう、この色違いこそ女性の興味を引く。「ひとくち頂戴」といわせる伏線だ。ロイズ王太子は高鳴る胸を抑え、何気ない様子で切り返した。もちろんその表情はいつもの仏頂面だった。


「苺ではないな」


 あえてじらすように可能性だけ否定すると、ソフィアはミルクティーを飲みながらたいして興味もなさそうにうなずいた。王太子はここまで自分の飲み物に手をつけていない。


(ああ、ソフィアの飲み物が減っていく……)


 ロイズ王太子は絶望していた。王太子の狙いはソフィアの飲んでいる(・・・・・)ミルクティーだ。自分からひとくち頂戴というわけにはいかなかった。男性からいうのと女性からいうのでは大きく印象が違う。ソフィアに「この変態」という目で見られた日にはもう壁に頭を叩きつけて床に倒れ伏してしまいそうだった。


 そしてソフィアがひとくち頂戴といいやすいように口をつけずにおいているこの桜ライチ味の飲み物は氷が溶けてだんだん味が薄くなっていきそうだった。透明な容器の外側に汗をかいたように水滴が浮かぶ。まるでロイズ王太子の内心の汗を表しているかのようだ。


 傍目には無言で涼しい顔をした男女が向かい合って座っているようにしか見えなかったが、この時ロイズ王太子の脳内ではこの状況を打破する一手を考えていた。


 一方ソフィアはなかなか飲み物に手をつけないロイズ王太子の様子に彼は喉が渇いていないのだと判断した。


(喉が渇いていないのに私の為にこんなおしゃれなカフェに案内してくれるなんて。男性は居心地悪いでしょうに……すきです、ロイズ様)


 彼女は精一杯の努力として速やかにこのカフェを出れるようにこの大きめのLLサイズの飲み物を飲み切ろうと苦心していた。


「ああ、ソフィアは桃色が好きだったかと思ったのだが」


 唐突に切り出されてソフィアはピンときた。


(やはり飲み切れないと白旗をあげられたのですね……!)


 ソフィアのLLサイズのミルクティーに対して、ロイズ王太子の飲み物はSサイズだ。喉が渇いていないことを如実に表している。そして量が少ない分、ソフィアは彼の飲み物を減らすつもりなどさらさらなかった。だが、彼のこの一言、このSサイズの飲み物ですら飲めないと遠回しに伝えているのだ。


(か……かわいすぎませんか、……すきです)


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