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ほどける心


 舞台上では婚約破棄令嬢が細身のレイピアを手に戦場のスクリーンの映像を背景に駆けめぐる。彼女の戦闘補佐をするのは隣国の王太子だ。鮮やかな連携プレイと大技を、アクロバティックな空中ブランコと天井から垂れ下がるカラフルな布地をつかったポールダンスで表現している。レイピアを使った演舞も、目を見張るほどの鮮やかな腕さばきと足さばきだ。


 舞台の上ではクライマックス。許しを請う王太子が地べたに這いつくばっていた。マリーはこの戦場のどたばたにまぎれて逃亡していた。


「すまなかったルイーゼ。私は心を入れ替えるよ。もう一度やりなおそう」


 王太子の言葉に、ルイーゼはそのレイピアの美しい切っ先を向ける。


「もう遅い」


 ルイーゼの鮮やかな剣舞は王太子の髪を一瞬にして坊主に刈り上げた。いや、違う。あの舞台役者が青のかつらを手品師のごとく観客の目線を盗んで脱いで隠したのだ。どっと観客席が沸いた。不貞王太子はすごすごと退場する。



 続いてやってきた隣国の王太子はその金の髪をスポットライトに照らされながら跪き、ルイーゼの手の甲にキスを贈った。

「ルイーゼ。いや、私の寵妃。私の愛を受け止めてほしい」

 隣国の王太子の手を取りダンスを舞うルイーゼは途中でドレスを手品のように早着替えして何回かお色直しをし鮮やかに舞った。舞台の天井からは花吹雪が溢れんばかりに舞い落ちる。


 エンディングの曲が重厚なクラシックで流れる。舞台背景のスクリーンが引きあがるとその向こうでは吹奏楽団の生演奏が行われていた。つまるところ今まで生演奏でバックミュージックが流れていたのだ。演者が次々と舞台前に並び、手を繋いで高く両手をあげ観客に深く礼をした。


 感動的な旋律が重厚な演奏で見事に調和して奏でられる。この曲を聴きながら劇の余韻に浸りつつ観客は退場できるという流れだ。


…………


「まあ……」


 ソフィア公爵令嬢は白いハンカチを口元に当てて感動して泣いた。彼女は王道物語を読んだこともそもそもあまりなかったのでこのコテコテな劇ですら初めて観たのだ。


「あっはははは! 見ました?ソフィア様、王太子のあの顔~!」


 アミーユは当然話の原作を読んでいたので周知のストーリーだったようだ。つまるところ勧善懲悪の不貞抹殺物語だったわけである。ソフィアの勘違いは晴れた。


(ハニートラップだなんて、失礼な思い違いでしたわ)


 すっきりした面持ちでソフィアはアミーユと劇場を後にした。アミーユと別れ、馬車に連絡しようと立ち止まったときふと頬に柔らかな花束がいい香りとともに突きつけられてソフィアは驚いて振り向く。


 彼女の目の前には花束を持ったロイズ王太子があいかわらずの仏頂面で立っていた。


「喉が渇かないか? 茶でも飲もう」


 ロイズ王太子はあのあと、予約していた花屋で昨日注文していた花束を受け取り、昨日予約していたカフェに予約時間に少し遅れる連絡を入れた後、律儀に上映時間が終わるまで待っていたのだ。


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