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チェックメイト



 ソフィア公爵令嬢は肝が冷えた。やはりあのチケットはハニートラップだったのだ。現に会場には何の因果か、ロイズ王太子がいる! もしあのチケットで彼の近衛騎士と劇場を見に来ていたら尻軽女の烙印を押され婚約破棄されていただろう。


 転売が相次ぐこのチケットで空席を不審に思った職員が、登録されていた電話番号に連絡し、ソフィアは本人確認と、第三者にチケットを譲与したと署名をしに会場に来ていたのだ。


 彼女の目の前には変装してこっそりと人込みに紛れているロイズ王太子の冷たい瞳があった。まんまと近衛騎士のハニートラップにひっかかり、この『僕は君と結ばれるために絶対に婚約破棄するから待っていてくれないか!!』を見に来ていたら大惨事だった!!




 ロイズ王太子はその蒼の瞳を見開いた。嘘だ、嘘であってほしい。


 彼の愛しのソフィア公爵令嬢が女神と見紛うかのような純白の清楚なワンピースを身にまとい、その長い銀の髪を編み込みのアップヘアにしている。そしてその可憐な碧の瞳は失望に昏く光を失っていた。


 不貞現場を見られた。チェックメイトだ。


 「あ、ソフィア様!」


 会場から出てきたアミーユがソフィアに気づいて大きく手を振りながら駆けてきた。固まる王太子ロイズの横をすり抜けてぎゅうとソフィアにハグをする。


「チケットありがとうございました~! もしかしてソフィア様も見たくなっちゃいました!? 私の隣の席空いてましたから一緒に見ません? たぶんもう誰も来ないと思いますし~」


 こそこそとソフィアの耳元で悪だくみを話すアミーユの言葉をロイズ王太子の耳は確かに拾った。


(そうか、友人に譲ったのか……なんて心根のやさしい私のソフィア……)


 ソフィアもほっと胸をなでおろした。

(助かった。チケット渡したと伝えてくれてありがとう、アミーユ貴女は私の恩人だわ)


「ええ、チケットがないのにそんなこと、いけないわ」


 ソフィアはにこりと微笑みながら言った。彼女の心は菩薩ぼさつのごとくいでいた。アミーユのおかげだ。



「チケットならある」


 ロイズ王太子が突然チケットを押し付けてきてソフィアは目を丸くした。アミーユも「誰この人」という顔で帽子を目深にかぶった不審な男を見た。


「一緒に見てきたらいい」


 帽子を深くかぶり、つばに手を掛けながら俯きがちにロイズ王太子は言い切った。ソフィアはそのチケットを見て驚愕に目を見開かせる。


(これは……私のもらったチケットと対のチケット!?????)


 ということはどういうことだ。ソフィアの頭はこんがらがった。


「あ、ソフィア様もうすぐ休憩時間終わるから行きましょ~」


 ぐいぐいと腕を引かれソフィアは会場に連れ込まれた。その手にはチケット。断る理由などどこにもない。しかもこのチケットは偶然・・にもその空席のチケットだ。


(ええと、王太子の近衛騎士のチケットを私が今持っていて……??)


 ソフィアは考えることを、やめた。


(とりあえず助かったわ)





 これは試合に負けて勝負に勝ったということだ。ロイズ王太子は受付前の中央ホールで口元を緩めた。彼の目的は達成された。ソフィアに無事チケットを渡し、ソフィアに今流行りの舞台を(仲の良い友人と)観劇してもらい、不貞の疑惑を晴らし、こうして無事に脱出できているではないか。むなしいのは気のせいだ……。



…………


 ドンドンドドドン ドンドンドドドン

 大太鼓の音と重厚な戦闘曲が臨場感あふれる音源で会場を包み込む。心臓に響くほどのこの音はまるでコンサートに来たかのような音色だ。


「いざ! 参らん! てーーーい!」


 舞台背景のスクリーンでは戦場の映像が流れる。竜撃槍が撃ち込まれ砂煙が舞う中、不貞王太子の城が次々と攻め込まれ火のついた矢が撃ち込まれ焼け落ちていく。鮮やかな転落が描かれていた。


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