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4 ────③


「気取らず飾らず、それでいて美しく。オフホワイトのドレスをベースに花のようなイメージに仕上げたぞ! どうだ、ゼン!」


「おう。何言ってるか全くわかんねえけど、すげえな。馬子にも衣装とはよく言ったもんだ!」


 店主さんにされるがまま、わたしは着せ替え人形のようにあれこれされた。


 すきにしてとは言った。……言ったけどさ! こんなの聞いてない!


 なんなの、この服……。

 ひらひらでふわふわしてるし……。おまけに靴底はちょっぴり高くて、手には何故か傘を持たされている。


 とっても動きづらいんだけど!


 それなのにおじさんときたら「綺麗にしてもらえて良かったな!」って。嬉しそうにわたしの頭を撫でてくるし。


 だから──。

 その手をパチンと振り払い、ムスッとしてプイッ。


 あからさまに嫌な態度を示してやった!


「ったく。そうカッカすんなよ。パンケーキはこのあと食いに行くっつってんだろうが」


 またこれだ。

 わたし、そんなに食いしん坊じゃないし!

 パンケーキが食べたくて怒ってるわけじゃないし!


 なんでそれがわからないの!


 むっすーとするわたしをよそに、おじさんはお構いなしに会計へと進んだ。


「世話になったな。会計だが、今後も客として(・・・・)見てやってくれねえか?」


 わざとらしく背を向けると店主さんとコソコソしだした。


 覗き込もうとすると、おじさんの大きな体に阻まれる。ぐいっと脚を引っ張るも、びくともしない。


「ちょ、ちょっとおじさん!」

「おう。パンケーキ勘定されたら敵わねえからな。少しの間、おとなしくしててくれ。文句は後でいくらでも聞いてやるからよ」


 なっ?!

 ついにわたしは厄介者扱いされてしまった。


 だからって引き下がるわけにはいかない。

 わたしはグイッグイッとおじさんの脚を引っ張り続けた。


 そんな様子に見兼ねたのか、店主さんが口を開いた。


「お前は言葉が足らないんだよ。昔から本当に、なんも変わらないな」


「うるせえよ」


 おじさんの聞く耳持たずな態度に店主さんは呆れた様子で首を横に振ると、わたしのもとに来て目線を合わすようにしゃがんだ。


「お嬢ちゃんの気持ちはわかる。きっとこの馬鹿のドケチっぷりを近くで嫌ってほど見てきたんだろうさ。でもな、こいつは間違わない男だ。それだけは俺が保証する。だから、悪く思わないでやってくれないか」


 店主さんから宥められるように言われ、そういえば昔にもこんなことがあったなぁと思い出す。


 おじさんと初めて会ったときのこと。

 もらった甘菓子を半分返そうとしたら「いらねえ」って言って聞いてくれなかった。


 あのときは少し無理をしているようにも見えた。本当は自分が食べたいくせに、なんて思ったりもした。


 でも今は、あのときとは違う。



 だから──。


「うん。わかった」


 今回だけは、おとなしく引き下がってあげる。

 なんでかはわからないけど、おじさんはこの服をわたしに着てほしいみたいだし。

 

 本当に、おじさんは仕方ないんだから!


 と、思ったのも束の間!!

 おじさんが巾着袋からお金を取り出すと、店主さんが驚いた声を上げた。


「こ、こんなに?!」


 えっ、パンケーキ何個分なの?

 ついさっき納得したはずなのに、心が揺らぐ。


「ああ。なにかと入り用になるだろうからな。嬢ちゃんに似合いそうな服を仕入れるなり作るなりして、しばらく面倒をみてやってくれ。俺はまたすぐ、遠征に出ちまうからよ」


 え……。買うのって一着だけじゃないんだ……。

 驚きのあまり、言葉を失っていると……。


「……あくまで、客として(・・・・)だな?」


「ああ。それ以上があっちゃいけねえ。悪ぃな」


 また、言葉足らずな会話が始まった。

 店主さんはなにかに気づくように納得しちゃってるし。


 わたしを残して、二人だけで通じ合ってるみたいな。


 本当になんなの。


 ……おじさんの、ばか!


 ばかーーッ!

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