関ヶ原お見合い合戦 ~人生の天下を分ける戦い~
どうも皆さん今晩は。深夜テンションで描いた小説の方が面白い。
時は西暦2XXX年。日本の神が度重なる性の不祥事を憂い、未婚の男性を東日本に、未婚の女性を東日本にそれぞれ居を構えさせた。つまりこの時代の日本は男性と女性で真っ二つに別れていたのである。
神は選ばれた男性と女性のそれぞれに将軍という役職を与え、男性と女性の統治をさせた。そしてある取り決めをさせた。
そして、男女が別れたままでは日本は滅亡するからと言うことで、神は男女それぞれの将軍にこう言った。
年に一度、関ヶ原にて大規模なお見合い合戦を開くように。その場以外では結婚は許さぬと。
ここは日本。まさに子孫を残すために戦いを繰り広げる国である。
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・・・
ここは男性の軍、通称男軍の本陣。そこでは将軍と呼ばれる男と10人ほどの側近のみがいた。男将軍が見据える先にはこちらとほぼ同数の女性のみで構成された軍隊、女軍が旗を掲げていた。
「将軍!全軍配置に着きました!お願いします。」
「うむ。」
側近に言われ男将軍は豪奢な椅子から腰を上げた。そして、渡されたマイクを握り、力の限り叫んだ。
「よぉく聞け!東日本で育った万夫不倒の男児達よ!此の戦に掛けるのは命では無い!掛けるのは己の人生だ!!どのような女性を選ぶも自由だ。だがな、己の人生を支える相棒を見つけるための此の戦、見誤れば相応の末路があると肝に銘じておけ!!」
この日本では離婚が認められておらず、例え妻、あるいは夫から逃げ出したとしても神の手によって必ず家に戻されてしまうという。その為、此の戦で人生のパートナーとなる人物を見誤れば悲惨な末路が待っているのである。
「最後に一つだけ言っておく。此の戦の結果が分かるのはかなり先、お前達が死ぬときだ!お前達が死ぬ瞬間、良い人生だったと思って冥府へと旅立てたのならお前達の勝利だ!娶ろうが、婿になろうが関係ない!幸せな人生をともに歩めただけで幸せなのだ!」
そう言って男将軍はマイクを投げ捨て側近に声を掛けた。
「法螺貝を鳴らせぇ!」
ブォオオオオオ
将軍の命令により側近が吹いた。猛々しい法螺貝の音が男軍だけではなく戦場全体に響き渡る。それを切っ掛け男軍の連中が女軍へと向って勢いよく走り出す。対する女軍にも勢いよく走り出す女性はいるが、大半はしずしずと静かに行軍していく。
戦いの火ぶたは落とされた。これより先は男と女の一切武器を使わない勝負。自らの子孫を残せるのか、幸せな人生を過ごせるのか。此の戦いによって決まるのである。
「行けぇ!己が人生、己の力で掴みとれぇ!!!!」
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此の戦いにおいて将軍の役割というのは作戦の支持だ。できる限りミスマッチが起きないように、ふさわしい相手を送り届けるのが将軍の役目である。常に諜報部隊から得られる情報を元に作戦を逐一変更していく。
「左翼の部隊から伝令!我潰走の危機にあり、繰り返す我潰走の危機にあり!」
「何だと!技術系のホープ達が集まる部隊に一体何があった!?敵の規模は!」
「対するは、淫らな服装をした部隊!左翼の部隊の3倍もの人数です!掲げている旗は至急がモデルの淫紋・・・選りすぐりのビッチ部隊です!!」
ビッチ部隊。男社会に生きる者としてこの名を知らない者は居ない。彼女らに興味を持たれたが最後、彼女らに伝わる男を堕とす108のテクニックによって籠絡されてしまう。例えどんな朴念仁であっても彼女のテクニックの前では為す術無く堕とされてしまうという。
「技術畑の若手ホープ達は能力は高いものの、ほとんどがコミュ障陰キャの集団です!ビッチ部隊とまともにやり合えば勝ち目はありません!」
「仕方あるまい!後から出撃させようと思って追ったが、目には目を、歯には歯をだ!左翼第一陣を後退させ、DQNチャラ男部隊を向わせろ!代わりに技術系ホープ達の部隊は、敵方中央の後方に展開している文学少女部隊に当たらせろ!」
「了解!」
側近が男将軍の命令を伝えるために陣から出て行く。その入れ替わりに諜報部隊の男が一人慌てながら入ってきた。
「将軍!」
「今度は何だ!」
「後方で待機していたショタ部隊が骨抜きにされております!敵の掲げる旗は救済の旗を掲げる、お姉ちゃん部隊です!」
「しまった!オネショタは盲点だった!育ちきっていない芽を摘み取るとはなんたる外道!救援にいける奴はおらんのか?」
将軍の問いかけに一人の少年が手を上げた。
「それなら、俺達クソガキ部隊に任せな」
此の少年の率いるクソガキ部隊とは、何もかも放り出し、女の扱いに特化したDQNチャラ男部隊によって育てられたショタ達の部隊である。あどけない笑顔で大人の女に近づき、ショタとは思えない技術で翻弄する。まさに年上キラーの部隊である。
「よし、ショタ部隊の救援はお主らに任せた。」
「まかせな!」
男将軍の命に対して子供のような活発さで陣を飛び出していくクソガキ部隊隊長。その瞬間、右翼の方から大きな歓声が湧き起こる。
「む、あそこは何が起きた!」
男将軍の問いかけに対して、つい先程入ってきた諜報部隊の男が答える。
「報告いたします!ヒモ部隊が相手のキャリアウーマン部隊の籠絡に成功!全員妻を連れて帰還するとのことです!」
「でかした!全員分のご祝儀の準備をしておけ!」
「は!」
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・・・
合戦が始まって一時間。戦場では段々と人が減っていった。この合戦は、人生を共にするパートナーが決まった瞬間に戦線離脱をすることになっている。
オタク部隊をまとめ上げ、数多くの求婚をされたのにもかかわらず、最後はイケメンと添い遂げ、オタク勢力の気勢を大きく削いだオタサーの姫軍団。
メンヘラ女達を一人残らず強い女に仕上げ、人生のトレーニングパートナーとした筋肉マッスル軍団。
そして、幼いときに結婚の誓いを立て、10年越しにこの合戦で出合い、真なる愛を確かめ合った者たち。
このほかにも様々な軍団が、男を、そして女を落とし、人生のパートナーとして添い遂げる誓いを立てていった。そして一人、また一人と、戦場から人が消えていった。
「現状はどうなっておるか?」
「現在、男軍で人生のパートナーを見つけられていないのは100名ほど。女軍も同数と思われます。」
側近の報告に将軍は満足そうに頷く。
「もう残りはそれだけか。戦も終わりが近いな・・・ではお前も戦場へ行け。儂もすぐに行く。」
「将軍!」
将軍のまさかの指示に側近は声を荒げる。戦の大将である将軍が戦場に行くなど、よほどの負け戦ならばまだしも、戦場が拮抗している状態で戦場に赴くとは前代未聞だ。
「聞け。俺もお前ももう35。このままでは孤独の人生を歩むこととなるぞ。」
「私は構いません!私は終生将軍様に仕えることが・・・」
「戯け!!」
側近の言葉を怒号で遮る将軍。
「貴様が俺に終生仕えるのは構わん。だが、儂は貴様一人で孤独に死んでいって欲しくないのだ!」
「しょ、将軍・・・」
「それに貴様、女軍の者と文で交流を深めておるだろう?」
「な、何故それを!」
「20年来のつきあいだ。それくらい分かるさ。側近よ。お主の幸せを願って折る。」
将軍の言葉に涙を流す側近。そして、居住まいを正すと将軍に覚悟を決めたようにこう言った。
「では将軍、行って参ります。これにて御免っ!!」
そう言って側近は陣から走って出て行った。いつの間にか用意していた100本のバラと小さな箱を持って。
将軍はそれを見て小さく笑った。
そして暫くして黒い装束を着た男が将軍の目の前に降り立った。
「将軍。ほぼ全員のパートナーが決まりました。残りもまもなくかと。」
と、報告をする。その報告に将軍は黒装束の男に質問をする。
「ふむ、貴様はどうだ?」
「おかげさまで女軍の忍びと。」
「そうか。それは良かった。すまんな呼び出したりして。早く戻ってマイホーム計画でも立てておれ。」
「御意!」
黒装束の男は一瞬にして消え去る。一人残された将軍はスーツのネクタイを締め直し、陣からでる。
「さて、ここに残るは俺一人。ならばこの陣を維持する意味は無い。俺も覚悟を決めよう。」
戦場を見つめながら男将軍はそうつぶやいた。
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・・・
一方女軍本陣。ここでは1人の美しい女が座っていた。先程まで将軍と引けを取らないほどの美貌を持つ側近がいたのだが、一人の男がその側近を娶ってしまった。側近はこの戦いが終わるまで残ろうとしていたが、女将軍は
「大馬鹿者!早くその男の両親に挨拶に行って式場の予約をしにいかんか!一生に一度の晴れ舞台を私のために棒に振る気か!心配はするな。生半可な男では私は陥落せん。」
と、豪快に送り出したのだ。
「さて、どうしたものか。男軍は全員この戦場から引き揚げた。女軍も私一人のみ。さて、私も引き上げるか。」
そう独りごち、陣から立ち去ろうとする女将軍。
「おお、これはこれは。噂に名高き美貌を持つ女将軍では無いか。」
しかし、突然聞こえてきた紳士的な声に呼び止められる。
「何者だ?」
訝かしげに問いかける女将軍。それに対して
「これは失礼。我は男軍の将軍。神の名のもとに選ばれた第14代目の将軍だ。」
声の主、男軍の将軍は堂々と名乗りを上げた。
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「男軍の将軍か。噂に違わぬ豪傑ぶりだな。わざわざ敵の本陣に将軍一人で来るなど、将のすることでは無いのでは?ここに単身乗り込むまでにいらぬ苦労をしただろう。」
と、男将軍の泥に汚れたスーツを見ながら挑戦的な口調で言う女将軍。
「ははは!確かにお主のビッチ軍団やら玉の輿軍団やらの残党に追い回されたが、どうと言うことは無い。むしろ、良い女に出合うためならばあれくらいの試練は無くてはな!」
しかし、男将軍はそんな挑発すら豪快に笑い飛ばした。豪快に笑う男将軍を見て目を細める女将軍。すると何を思ったのか、男将軍はこんなことを言い始めた。
「さて、このような絶世の美女をデートに誘わんのは男の恥というもの。どうだ?俺とデートでもしないか?」
「良いでしょう。ただ、普通にデートだけをするというのも何ですし、ここは将軍らしく血痕をかけたデート勝負といきませんか?先に陥落した方が名字を替えるということで。」
「面白い!受けて立とう。」
こうして第14回関ヶ原お見合い合戦、最後の戦いが始まった。・
・・・・・
・・・
「では少々歩くとするか。確かこの先に河原があったのだが、川沿いに咲いている桜が見事でな。お主にも見せたいのだ。」
「そうでしたか・・・では」
スッと、自身の華奢な右手を出す女将軍。
「エスコートをお願いしても?」
「ふっ・・・もちろんだ。」
それに対して男将軍は自身の左手を出し、女将軍の右手に重ねる。どちらの将軍も満足げに微笑むと、河原に向って歩き始めた。
(お、大きな手。それに逞しい腕。それに・・・何て暖かい手・・・っ!とと、いけないいけない。男性に手をつないで貰ったくらいで私ってば・・・)
(小さい手だ・・・それに柔らかいっっ!それに何か良い香りが・・・はっ!いかんいかん煩悩退散!煩悩退散!)
傍目から見たら自信たっぷりな二人だが、生まれてからこのかた異性とのデートなどしたことの無い二人である。見た目に反して二人はとても初心だった。
「本日は良き戦日和だったな。」
「ええ・・・本日は日柄もよく・・・っ!」
和やかに歩く二人
すると、突如パキッと何かが折れるような音がして、女将軍は倒れそうになる。ぎゅっと目をつぶる女将軍。しかし、予想していた衝撃はいつまで経っても訪れなかった。
恐る恐る目を開けてみると。
「大丈夫か?」
なんと、男将軍によって抱き留められていた。女将軍は赤面しつつもすぐに男将軍の手から離れる。
「え、ええ。」
「む、お主の靴、ヒールの部分が折れているな。」
見ると、女将軍の履いていた靴のヒールが根元から折れてしまっていた。これでも歩けないことは無いが、左右の高さが違う靴で歩くとなると、相当歩きづらいだろう。
(どうしましょう・・・これでは・・・)
暗い顔になる女将軍。しかし、男将軍はそんなことを意にも介さず、女将軍のことを抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこである。
「すまんな。これから先の道は少々険しい故、このような方法をとらせて貰ったが・・・不満か?」
「い、いいえ・・・ありがとうございます。」
男将軍に春の陽気のような微笑みを浮かべながら礼を言う女将軍だったが、内心は夏の積乱雲のように荒れ狂っていた。
(おおおお姫様抱っこ?!ムリムリムリムリ!いやでもきゅんとしちゃう!!よほどの不細工ならまだしも、この人顔も一級だわ!油断しているとすぐに落とされてしまう・・・!!)
対する男将軍の内心は
(ふっ、これぞ将軍家に伝わる秘伝技プリンセスハグ。これで落ちぬ女はいないと言われているが・・・やはり女将軍にも聞いているようだ!)
自分の行動に自画自賛しつつ
(しかし・・・軽いな。ちゃんと食っているのだろうか?はっ!もしや西日本では章句生活が脅かされるほどの大飢饉が・・・?戻ったら食料の輸出を考えねばな。)
と、的から一キロほど外れた考えをしていた。
・・・・・
・・・
15分後
二人は河原へと辿り着いていた。河原では幾本もの桜が咲き乱れ、見頃となっている。
「ふむ、見事な桜だな。」
「ええ、とても綺麗で・・・」
お姫様抱っこをしたまま、暫く静寂の中を歩く二人だったが
グゥウウウ・・・
男将軍の腹の音により、その静寂は切り裂かれた。
(な、なんたる不覚・・・!!敵は我が身の内にいたのかっ!このまま今すぐ切腹したいっ!)
赤面する男将軍。視線を落としてみると、女将軍はクスクスと笑っている。気まずさが男将軍を支配する。
すると、女将軍が持っていた鞄からなにやら四角い包みを取り出した。
「あの、よければ私の昼餉を。少々作りすぎてしまったもので・・・」
その女将軍の一言に、雷が落ちたかのような衝撃を受ける男将軍。
(て、手作り弁当だとっ・・・!まさかこうなることを予測していたとでも言うのか!モシこれが美味ければ儂の胃袋は捕まれてしまう!!)
「あ!あの桜の下で食べましょう。」
「あ、ああ・・・」
腕の中で1本の桜の木を指さす女将軍。男将軍は言われるがままに歩みを進めた。
・・・・・
・・・
「はいどうぞ。あーん」
「い、いや大丈夫だ。自分で食べられる・・・」
桜の木の下で和やかに昼食を摂る二人。戦況としては女将軍優勢だった。いくら唐変木で朴念仁な男将軍ですら籠絡するそのテクニックは流石といわざるを得ない。その上女将軍の手作り弁当は今まで食べてきた料理の中でも極上の味だった。
(ま、まずい、このままでは、この俺が婿入りすることに・・・)
頭では分かっていても体は正直だった。箸が止まらないのだ。完全に胃袋は彼女の手に握りしめられている。劣勢に立たされてしまった男将軍。
その時
「む・・・?」
「え・・・きゃあ!」
一陣の風が吹き、二人の周りに桜吹雪が舞い散る。二人に桜の花びらが降りかかり、何枚もの花びらが頭に降り注ぐ。
「桜吹雪か・・・見事なものだな」
「ええ・・・ただ花びらが・・・」
二人で頭に付いた花びらを払い落とす。そのとき、男将軍の目に女将軍が頭から払い損ねた花びらが映った。
(こ、これだっ!!これこそ起死回生の一撃!!)
男将軍は全身全霊を掛けて女将軍に顔を近づけ、頭に手を伸ばす。そして、女将軍の頭を撫でるように花びらを摂る。
「え?ええ・・・ああ、あの・・・!」
「花びら、まだ付いておったぞ。」
思わぬ男将軍の行動に赤面する女将軍に対して自身が最強と自負する決め顔で応える男将軍。ここへ来て戦況は振り出しに戻った。
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・・・
しばらくして、男将軍が問いかけた。
「さて、この後はどうする?」
「わ、私はまだ帰りたくないです・・・」
先程のダメージが消えていないのか、女将軍はしどろもどろになりつつ応える。
「奇遇だな。俺もだ。」
再び男将軍は女将軍をお姫様抱っこする。
「近くに贔屓にしている旅館があるのだが、一緒にどうだ?」
「ええ、このままじゃ私も帰れませんし。その旅館で決着を付けましょう。」
「ふ、望むところだ。」
二人だけの戦はまだ終わりそうに無かったが、世の中は平和だった。